パリ五輪柔道“あの”疑惑のルーレットを金メダリスト・永瀬貴規(31歳)は現場でどう感じた?「フランスに流れがあったのは間違いない。でも…」
誤審騒動に疑惑のルーレット――畳の外の話題も大いに紛糾したパリ五輪の柔道競技。そんな喧騒を意に介さず、2大会連続の金メダルを獲得したのが81キロ級の永瀬貴規(31歳)だ。その厳かな佇まいはSNSでは“永瀬すぎる”とも話題に。日本柔道「最強の男」が振り返る、大舞台の記憶とは。《NumberWebインタビュー全3回の2回目/つづきを読む》 【貴重写真】“ロン毛”時代の永瀬貴規、見たことある? ウルフアロンにも勝利した筑波大学時代の貴重写真に…「なぜそこに」「永瀬すぎる」話題のパリ五輪集合写真も。この記事の写真を見る。 負けた試合を糧として、勝利のために必要な動きと技を考え、稽古で最善を尽くす。和紙を一枚一枚積み重ねるような研鑽の蓄積が、リオ・東京・パリの3大会連続のメダルという快挙を実現させた。
心がけたのは「柔道の基本に立ち戻る」こと
パリオリンピック柔道男子81キロ級の準決勝、決勝を待つ永瀬貴規(31歳)に恐怖や気負いは皆無だった。 「繰り返した稽古の成果を一つ一つ確認することができました。稽古した組み手や動き、その技を、畳の上で再現できることが楽しいとすら感じられたことを覚えています」 金メダルのために心がけたことはとてもシンプルなことだ。 「一試合毎、柔道の基本に立ち戻る、ということです。それには、自分の組み手を作ること。相手より有利な組み手になろうと鋭く攻防することで、プレッシャーを与えることにもなりますから」 柔道の基本は、右手で襟を握る「釣り手」と左手で袖を持つ「引き手」だ。道着の襟と袖、2点をしっかり掴み、前へ出て技をかけていくというこの基本を、永瀬は徹底追求した。 「この姿勢さえ貫けば、今日は負けることはない、という自信もありました」 準決勝は、世界13位のイタリアのアントニオ・エスポジト(29歳)。近年は国際大会でコンスタントに上位に入るこの選手は、永瀬にとって初対戦の相手だった。 「準決勝までには3時間ほどの空き時間があります。そこで念入りにエスポジト選手の戦術分析を行いました。試合の勝ち上がり映像を見ると、彼は先にしかけてくるタイプでした。相手のペースに持ち込まれないためには、先手をとって動きを封じることが必要でした」 永瀬はその言葉通り攻めた。開始1分すぎに支え釣り込み足で技ありを奪い、その後、寝技で抑え込んで2つめの技ありを取る。合わせ技一本での勝利、時間はわずか2分半だった。 パリ現地時間30日の午後、日本時間では31日の深夜、決勝の舞台は整った。対戦相手はジョージアのタト・グリガラシビリ(24歳)。ジョージアの柔道はレスリングなどの格闘技の要素が溶け込んでおり、日本人選手を苦しめている。 現代の柔道では、「柔道」と「Judo」があると言われるが、グリガラシビリは「Judo」を象徴する選手だった。 「グリガラシビリ選手は体の力が凄く強いんです。奥襟を掴み力でねじ伏せる選手です。最近は力に加えて細かな技術も身につけていて、世界選手権3連覇は真の実力でした」 永瀬は、2022年の世界選手権でグリガラシビリと対戦し敗れた経験がある。 「この負けた試合のビデオは、何百回と見ましたね」 グリガラシビリに負けないための稽古を積んだ。永瀬の心には確かな自信が宿っていた。 「激しい組み手争いになりましたが、辛抱し、屈することはなかった」 技が出ない中、両者に指導が与えられた。直後、永瀬が寝技を仕掛けると客席には大きな拍手が起こる。投げ技を封じるため寝技へ持ち込んだ永瀬は、攻め入る隙を待っていた。 「一瞬の隙をつき、相手を追い込み、体の後ろ側から足を掬って倒すことができました」 谷落で技ありを奪う。そこから主導権を握ると、流れは一気に永瀬へと傾いていった。2分48秒、谷落としでの一本。オリンピック2連覇の瞬間だった。 「よっしゃー」 「一本」と審判の声が聞こえた刹那、永瀬は心の中でそう叫んだ。
【関連記事】
- 【つづき/#3を読む】「自分はもう終わりだと思いました」“永瀬すぎる”振る舞いの裏に知られざる苦難…柔道81キロ級金・永瀬貴規(30歳)が陥った「東京後のスランプ」
- 【貴重写真】“ロン毛”時代の永瀬貴規、見たことある? ウルフアロンにも勝利した筑波大学時代の貴重写真に…「なぜそこに」「永瀬すぎる」話題のパリ五輪集合写真も。この記事の写真を見る。
- 【前回/#1を読む】紛糾した“誤審騒動”に「一本を取るしかない」…柔道81キロ級金・永瀬貴規(30歳)はなぜパリで圧勝できた?「会場は当日まで行きませんでした」
- 【こちらも読む】「(代表選手で)いちばん強い」永瀬貴規の“キャラだけじゃない”柔道界のリアルな評価…素顔は「超努力家」、ウルフアロンに勝った大学時代
- 【話題】柔道・村尾三四郎の本音「(ルーレット)僕には回ってこないだろう」鈴木桂治監督は「さすが国際柔道連盟…」パリ現地記者が見た“リネール確定ガチャ”の真相