自宅は配偶者へ生前に渡すべき? それとも相続時? 贈与税の配偶者控除と相続税の配偶者控除の違いとは?
相続税の配偶者控除とは
もう一方の相続税の配偶者控除を見てみましょう。この制度を利用すると、配偶者が相続した財産のうち、次の(1)、(2)のどちらか大きいほうの金額までは、相続税が課されません(※2)。 (1) 1億6000万円 (2) 配偶者の法定相続分 たとえば、妻、子2人がある夫が亡くなったとします。妻の配偶者控除は、妻が相続した財産が(ア)1億円の場合は最高1億6000万円(*1)、(イ)5億円の場合は最高2億5000万円です。 (*1) 現実には相続財産が1億円のため、控除額も1億円となります(妻の相続税額はゼロ) 具体的に計算式を示してみます。 (ア)の場合: (2) 配偶者の法定相続分は、1億円×1/2(妻の法定相続分)=5000万円 (1) > (2)のため、1億6000万円 (イ) の場合: (2) 配偶者の法定相続分は、5億円×1/2(妻の法定相続分)=2億5000万円 (1) < (2)のため、2億5000万円 以上の計算で示した配偶者控除の額がいかに大きいかは、相続税が課される財産の被相続人1人当たりの平均が1億3711万円(2022年国税庁の調査による、※3)であることからも分かると思います。 なお、前述の「贈与税の配偶者控除」と違い、こちらは住居用の不動産に限らず、被相続人名義の財産すべてが控除の対象となる上、贈与税の配偶者控除をかつて利用したことがあっても利用できます。
生前贈与、相続のどちらがよいかはケースバイケース
贈与時にも相続時にも、配偶者には大きな税務上のメリットがあることが分かりました。 それでは、結局、自宅は(配偶者に)生前に渡しておくべきなのでしょうか、それとも相続時に渡すほうがよいのでしょうか? この答えは、ケースバイケースです。 次に示す、生前贈与と、相続によるそれぞれの主なメリット・デメリットを比較して判断する必要があります。
生前に贈与する場合のメリット・デメリット
<メリット> ●自身が元気なうちに、配偶者に贈与税上有利に土地・建物を贈与できる。 ●生前に配偶者へ確実に名義を移すことができる。 ●不動産の一部を贈与して共有名義にして、やむを得ない事情(*2)により売却した場合は、譲渡所得の3000万円特別控除を夫婦両方で利用できる可能性がある。 (*2)やむを得ない事情がないのに売却した場合は、前述の要件「贈与を受けた配偶者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること。」に抵触する恐れがあります。 ●過去7年以内の贈与であっても、贈与税の配偶者控除を使った贈与は相続財産への繰り戻しの対象とならない。 <デメリット> ●不動産取得税や登録免許税等、登記にかかる費用がかさむ(*3)。 (*3)相続時は、不動産取得税はゼロ、登録免許税は相続人以外の人が遺言によって取得した不動産を登記する場合の税率の5分の1で済みます。 ●生前贈与の結果、相続時に自宅の土地の価格を最大80%減額できる「小規模宅地の特例制度」のメリットがなくなる、もしくは減少する(*4)。 (*4)この理由により、生前贈与を行っても、相続税の節税効果はほとんどない場合があります。 ●贈与を受けた配偶者が先に亡くなると、その財産を相続する際に(かつて贈与をした人に)相続税がかかる可能性がある。