美輪明宏「日本語は美しくて繊細。1人称でも多くの表現が。『光る君へ』の原作『源氏物語』を読んで〈心の貴族〉になってみては?」
歌手、俳優の美輪明宏さんがみなさんの心を照らす、とっておきのメッセージと書をお贈りする『婦人公論』に好評連載中「美輪明宏のごきげんレッスン」。 8月号の書は「美しい言葉」です。 【美輪さんの書】〈心の貴族になれそう!?〉美輪さんの書 * * * * * * * ◆日本語の特徴とは何か みなさんは、日本語の特徴はなんだと思いますか? 漢字とひらがな、カタカナを組み合わせて使うというのも、特徴の一つでしょう。でも私が思う一番の特徴は、日本語はとても繊細で語彙が豊か、ということです。 英語の一人称は「I」。男性も女性も、大人も子どもも、「I」で表します。ところが日本語には、「わたくし」「わたし」「あたし」「僕」「吾輩」「拙者」「俺」「小生」「わらわ」など、さまざまな一人称があります。それぞれニュアンスが違い、シチュエーションや立場によって、言葉を使い分けてきたのです。 私の出身地、長崎では、男性の一人称は「おい」、女性は「うち」。「××ばってん」といった長崎ことばを今も懐かしく感じます。
◆表現豊かな日本語にふれて《心の貴族》に 音楽学校に入るため東京に出てきたのは、16歳のとき。当時、東京の山の手の人たちは、本当に美しい日本語を使っていました。たとえば「私が」と言うときも、「が」を少し鼻にかかった鼻濁音で発音するので、語調がやわらかく上品になります。 そうした日本語の美しい響きを大事にしつつ、古きよき時代の日本語表現にもふれてみてはいかがでしょう。その方法の一つとして、美しい言葉で書かれた小説や詩を読むことをおすすめします。たとえば、岡本かの子、幸田文、北原白秋、佐藤春夫、宮沢賢治、川端康成、谷崎潤一郎、泉鏡花などが書いたものは、表現が美しく、言葉のリズムも個性的です。 今期の大河ドラマ『光る君へ』は紫式部がモデルのようですが、『源氏物語』にもぜひ親しんでいただきたい。原文で読むのが難しければ、瀬戸内寂聴さんの訳を始め、現代語訳が何種類もあります。男女の機微や、貴族の衣装、庭の草花などが美しい言葉で書かれた美的な世界に触れると、感性が磨かれ、《心の貴族》になれるかもしれません。 ●今月の書「美しい言葉」 (構成=篠藤ゆり、撮影=御堂義乘)
美輪明宏