米住宅市場指数が急落 2019年のFOMC利上げは慎重に?
普段はそれほど注目されないある経済指標が急落したことで米国の金融市場に影響を与えているといいます。第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。
住宅ローン金利が上昇
少し前の話ですが、11月19日に発表された11月の「NAHB住宅市場指数」が専門家の間で注目されています(NAHBはNational Association of Home Builders:全米住宅建設業者協会)。この指標は住宅建設業者に景況感をヒアリングしたもので、普段は決して注目度の高いものではありませんが、中古住宅販売件数、新築住宅販売件数、住宅着工件数など一連の住宅関連指標に先駆けて発表され、その速報性と予測精度の高さが優れていることから、米国住宅市場の先行指標として有用です。 このNAHB住宅市場指数は10月の「68」から一気に8ポイントも急落し11月は「60」となりました。8ポイントも低下するのは天候要因(寒波、ハリケーンなど)、税制改正などといった特殊要因を除くと、リーマンショック前後以来で初めてですから、さすがにこの急落には米国の金融市場も反応を示しました(株安・金利低下)。急低下したとはいえ、それでも60という十分に高い水準を維持していることから「住宅不況」という言葉が馴染むほど弱くはないのですが、住宅市場の冷え込みはもはや疑いの余地がなくなってしまいました。 これについてNAHB住宅市場指数の公表元である全米住宅建設業者協会は「ここ数か月上昇している住宅ローン金利と、度重なる価格引き上げが相まって、住宅需要が失速している」との見解を示しました。 実際、住宅価格は過去6年程度、ほぼ一貫して賃金上昇率を上回って上昇してきましたから、いわゆる中間層にとって住宅購入が厳しくなっていました。そこに追い討ちをかけたのが住宅ローン金利上昇です。30年固定金利は年初の約4%から1%程度上昇して直近では5%に迫っています。住宅ローン金利が4%から5%へ上昇した場合、30万ドル(3300万円程度)の借入で総返済額は6.4万ドル(700万円程度)も増えますから、消費者の住宅取得能力は大幅に低下します。雇用所得環境が改善する状況下で、家計の住宅取得意欲は旺盛ですが、さすがに限界点に到達したとみられます。 この住宅ローン金利上昇の背景にあるのは米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げです。今後の利上げについて、FRB中枢のパウエル議長、クラリダ副議長、ウイリアムズNY連銀総裁は今後のデータ次第であるとして、将来の利上げ経路について明確な発言を避けています。しかしながら、今回、このような形で金融引き締めの効果が可視的に出現したことは、FRBの政策当局者の判断に影響を与える可能性があります。2018年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では追加の利上げ(FF金利上限は2.25%→2.50%)が確実視されていますが、2019年の利上げについては従来対比で慎重な見方が示される可能性があるでしょう。
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