「感情を持たないAI」は、「人間のように」上手に短歌を詠めるようになるのか?
短歌とAIと人が出会う
私はこれまでに、短歌AIをつくるための学習データを準備したり、短歌AIがより短歌らしい内容を生成するにはどうすればよいか、試行を重ねたり、短歌生成の様子を歌人の方に見せて反応を窺ったり、またそこからAIと人との関係について考える場を提供したり、「短歌とAIと人」に関わる活動をさまざまに重ねてきました。 本書では、そんな過程の一つ一つから得られた発見や知見を整理し、皆さんにお伝えします。 まず序章では、AIがどのように言葉を学習してそれを扱えるようになるのか、AI=言葉を生成する「言語モデル」の基本的な原理を示します。 続く第1章では、朝日新聞社でのさまざまな取り組みを例に、短歌AIの全体像を眺めます。 第2章では、五・七・五・七・七のリズムを持つ短歌の「定型」を、AIがどのようにして身につけるかについて説明します。そして、短歌を「詠む」ためには短歌を「読む」のが大事であること(第3章)、言葉を「歌」にするための飛躍について(第4章)解説します。 第5章では、短歌AIと人間とのやりとりを通じて、短歌をつくる現場での人とAIの関係を考えていきます。AIの発展の速度は近年とても速く感じられますが、言葉を扱うそれを介して、短歌という文化・創作について改めて考えていく過程には、普遍性が宿ると信じています。 まるで人のように短歌をつくるAIがある。確かにそれは、人と「似ている」わけですが、AIの方が得意なこと、人間の方が得意なこと、AIにしかできないこと、人間にしかできないこと、そして共通してもっていること……が、短歌AIを通して見えてくるでしょう。私はこれを、新たに短歌と私たち人間について考える、良い機会だと捉えています。いま、この時代だからこそ生まれる、人が短歌をつくることへの新しい感覚を、この本の中で表すことができたらと思います。 〈AI〉が短歌を学び、そして〈人間〉と出会う。このさまを見ることで、〈あなた〉が短歌について知り、それを自分のものとして、新しい歌をつくる。この本が、そんなきっかけの一つとなればうれしいです。
浦川 通