「感情を持たないAI」は、「人間のように」上手に短歌を詠めるようになるのか?
新聞社の短歌AI
ここで、なぜ私がこの本を書いているのか、簡単に自己紹介をさせてください。 かつて私は、「メディアアート」の制作をしていました。メディアアートとは、新たなテクノロジーを応用して制作される、あるいはテクノロジーそのものをテーマにしたアートのことです。それは、「私たちの日常をつくる技術と私たち自身の関係性」について、モノをつくるという実践を通して考える行為でした。 そして現在、私の興味は「言葉」に対する技術の応用に向かい、朝日新聞社メディア研究開発センターで「自然言語処理」の研究開発に取り組んでいます。 自然言語処理──ひょっとしたら、聞き慣れない言葉かもしれません。これは、人が日常で扱う言葉をコンピュータが処理する技術を指します。人によって書かれる文章や話される会話など、私たちが毎日の生活で交わす「言葉」をコンピュータが処理し、例えばそれを別の言語へ翻訳したり、重要と思われる箇所を要約したり、といった「言葉」にまつわるさまざまなことをできるようにする技術です。 そしてこの自然言語処理は、人間の言葉を理解し扱う技術として、AI研究の分野とも深く関わっています。この分野では「機械学習」と呼ばれる手法が広く用いられており、大量のデータから学び、特定の課題を解決するAIが開発されています。新聞社には、過去から現在にわたる多様な出来事を記録した膨大な新聞記事があり、これらは私たちのAI開発に不可欠なデータとなります。実際、メディア研究開発センターでは、そのような大量のデータを利用して、自動的に記事の見出しを生成するAIなどを開発してきました。 短歌を生成する〈短歌AI〉も、新聞社の中で生まれたAIです。私の個人的な興味から試作を始めたのちに、100年以上の歴史を持つ「朝日歌壇」を担当する文化部をはじめ、社内外の研究者、さらには歌人といった方々との協力のもとで形づくられ、世の中へと広げられています。