うつ病の再発率が60%といわれる根拠は? 「この薬で死亡率が3倍」といったセンセーショナルな表現や情報は誤りである可能性が高い理由
センセーショナルな表現は疑ってみる
テレビや雑誌、ネットニュースなどでは、病気の発症や再発、あるいは治療の効果などの率や割合を示すにあたり、センセーショナルに、大げさに、恐怖感や危機感、または希望をあおる表現が非常に多くみられます。 そのような情報が気になるとき、これまでに挙げた3つの観点で冷静に考えてみてください。まとめると次のようになります。 (1)その数値は「率」なのか、「割合」なのか。もし「率」なら、その時間単位はどのように設定されているのか。 (2)そのできごとの「基準」や「定義」が示されているか。独自の基準を使って過大に、センセーショナルな表現になっていないか。 (3)何人の規模の研究から結果を述べているのか。小規模のデータに基づいたものではないか。 もし数値の読み取りが苦手であっても、情報に接しているときに「大げさな表現だなあ」と直感した場合は、これらのポイントが明記されているかを確認してください。 *1 Kato M, Hori H, Tajika A, et al. Discontinuation of antidepressants after remission with antidepressant medication in major depressive disorder: a systematic review and meta-analysis. Mol psychiatry. 2021; 26(1): 118‒133. *2 *1は、日本語論文で次にも説明がある。 ・田近亜蘭、古川壽亮「うつ病治療のメタ解析」特集 臨床につながる気分障害研究最前線『臨床精神医学』(0300-032X)第51巻第10号、2022年10月、1171─1177ページ ・田近亜蘭、古川壽亮「うつ病治療における抗うつ薬の用量」特集向精神薬の用量『臨床精神薬理』(1343-3474)第25巻12号、2022年12月、1311─1317ページ *3 Hardeveld F, Spijker J, De Graaf R, et al. Prevalence and predictors of recurrence of major depressive disorder in the adult population. Acta Psychiatr Scand. 2010;122(3): 184-91. *4 田近亜蘭、熊谷成将、古川壽亮「新たなデバイスを活用した早期介入~早期介入の港をより近くに~スマートフォンアプリとウェアラブルデバイスを用いた、寛解期のうつ病患者の再発予測」『予防精神医学』7巻1号、2022年、3─12ページ 写真/shutterstock
---------- 田近亜蘭(たぢか あらん) 1972年大阪市生まれ。京都大学大学院医学研究科健康増進・行動学分野准教授。医学博士。精神科指導医・専門医。精神保健指定医。京都大学大学院医学研究科博士課程医学専攻修了。関西医科大学精神神経科・医局長、京都大学医学部附属病院精神科神経科外来医長などを歴任。『日本うつ病学会診療ガイドライン双極性障害(双極症)2023』『統合失調症薬物治療ガイドライン2022』ともに作成委員。 ----------
田近亜蘭