全ては『ブライガー』から始まった…時代を先取りした昭和ロボアニメ「J9三部作」の偉大さ
■主要キャラが容赦なく死ぬ…『銀河烈風バクシンガー』
日本の幕末時代を宇宙に移し、新選組モチーフの主要キャラクターが活躍したのが、シリーズ二作目の『銀河烈風バクシンガー』だ。 太陽系で一旗あげるため、「J9」に憧れる若者たちが「銀河烈風隊(別名・J9-II)」を結成し、特別警備隊として反バクーフ(言ってしまえば反幕府)勢力と戦う物語。 主要メンバーの役割やサポート役の人物像などは前作と共通点が多く、担当声優もシリーズを通して同じ人が担当している。 主人公ビリー・ザ・ショットは沖田総司がモデルで、烈風隊局長のディーゴ・近藤は近藤勇、シュテッケン・ラドクリフは土方歳三、佐馬之介・ドーディは原田左之助など「新選組」の隊長格がモチーフになっている。 なお、紅一点のライラ・峰里に明確なモデルはないが、後にバクーフ総将軍ユーリ・カズン・アーウィンの妹と判明する。 ほかにも、地名や人名などは幕末由来になっており、シンザーク・ハイム(高杉晋作)やオズマ・ドラーゴ(坂本龍馬)などはすぐに分かったが、イーゴ・モッコス(西郷隆盛)とケイ・マローン(桂小五郎)は少々ヒネリが利いていた。 そんな彼らが操るロボットの合体シーンは、トンデモないうえに最高だ。宇宙空間でマントをなびかせながら5台のバイク型マシーンに搭乗し、「シンクロン合体だ!」のかけ声とともに、バイクが風船のように巨大化&変形。こうして合体ロボ「バクシンガー」となるのである。 そして烈風隊の面々がどのような結末を迎えるのかは、幕末を知る者ならある程度予想できると思うが、とにかく推しキャラが容赦なく死ぬ。当時、ファンの有志が彼らの死を回避するために署名活動を行ったが、その思いは届かず悲しい最期を迎えてしまった……。
■前作のシビアな世界観から雰囲気が一変…『銀河疾風サスライガー』
シリーズ三作目の『銀河疾風サスライガー』は、フランスの作家ジュール・ヴェルヌの冒険小説『八十日間世界一周』がモチーフ。賞金稼ぎを生業(なりわい)とするメンバーが機関車で星々を巡る物語が描かれた。 西暦30世紀の未来、アステロイドに浮かぶ娯楽施設J9ランドのカジノでは、宇宙最強の賭博師I.C.ブルースが勝ち続け、一晩で莫大な財を手にした。これに業を煮やした暗黒街の大物ブラディ・ゴッドが、1年間で50の星々をめぐるビッグゲームをブルースに持ちかける。 そのゲームに挑むブルースに対して次々と妨害工作が行われるも、仲間とともに跳ね返していくというのが大まかなストーリーだ。 ブルースと同行する「JJ9(ダブルジェーナイン)」のメンバーは、父の仇を探すロック・アンロック、レーサーのビート・マッケンジー、占いの権威を自称する女性バーディ・ショウという顔ぶれ。 JJ9のメンバーたちは、蒸気機関車型の自家用トレイン「J9-III号(ジェイナインスリー)」に乗車し、星から星へと移動する。 実は、この機関車こそが本作のロボット「サスライガー」に変形するのだが、なぜか巨大化させるトンデモ設定の“シンクロン原理”が無くなったために巨大化はせず、機関車サイズのロボットとなる。そのため前2作に比べると、かなり小ぶりなロボットとなっている。 さらに柴田秀勝さんによるオープニング冒頭のあの独特の口上もなくなってしまい、ちょっと寂しく感じたものだ。 同作は50の星をめぐるためか、全39話だった『ブライガー』や『バクシンガー』よりも長い、全43話構成。かつて『ブライガー』で誕生し、『バクシンガー』に登場した「ゴワハンド星」や「トーバ星、ミフーシ星」なども描かれ、J9シリーズファンとしては思わずニヤリとさせられた。 余談ではあるが、エンディングなどは前2作と比べてかなり明るい曲調になっている。これらの編曲や作曲を担当したのは、スタジオジブリ作品の楽曲でも知られる久石譲さんだ。 2014年4月8日、約30年ぶりとなるJ9シリーズの新作『銀河神風ジンライガー』の制作が発表された。水滸伝をモチーフにした新作アニメということで、ファンとしては期待せずにはいられなかったが、J9シリーズの原作・原案を手がけられた山本優さんが2018年11月に逝去され、残念ながら同プロジェクトの終了が発表された。 昭和のロボットアニメ界に新しい風を吹き込んだJ9の意志を汲む新作を観てみたかった思いはあるが、偉大なクリエイターが遺した名作を、当時を懐かしみながら振り返ってみるのも一興だ。
高塔琳子