なぜ、米国人は「MAGA」に熱狂するのか…“偉大な”1900年頃を想起させる危ない思想
■ 再び広がる人種・女性差別と反ユダヤ主義 11月5日の大統領選直後、黒人の携帯電話に人種差別的な内容のテキストメッセージが送りつけられるケースが全米各地で相次いだ。 黒人差別に加えて女性差別の動きも顕在化している。 11月12日付CNNは「SNS上で『お前の体、俺の選択』『台所に戻れ』といった性差別的な誹謗中傷が急増している」と報じている。 学歴社会の米国では学校の成績が個人の一生を決定づけるが、高校生の成績上位10%の3分の2が女子で、下位10%の3分の2が男子というのが現状だ。女性に対する男性のルサンチマンがトランプ氏の復権で一気に噴き出しそうだ。 思い起こせば、1900年当時の米国社会は女性差別の傾向が強かった。「男女の役割は交換不可能で、女性は母となる」ことが当然視されていたし、開拓時代の西部地域における女性蔑視もひどかった。 最も懸念すべきは、米国で反ユダヤ主義がさらに勢いづくことだ。 トランプ氏自身はイスラエル寄りの姿勢を強調しているが、「MAGA」の支持者は必ずしもそうではない。むしろ、格差拡大への不満から、金融業界などエリート層をユダヤ人が牛耳っているといった反ユダヤ主義の陰謀論を信じる人も少なくない。 MAGAが理想とする20世紀初頭の米国ではユダヤ系移民(数百万人規模)への激しい差別・迫害が横行していた。1960年代にユダヤ人への差別はようやく影を潜めていったが、2008年のリーマンショックでユダヤ人陰謀論が急速に広がり、それ以降も反ユダヤ主義の台頭が続いている。 米中部ミシガン州で11月9日、ナチス・ドイツの迫害を受けたユダヤ人の少女が記した「アンネの日記」を基にした演劇の上演中、ナチの旗を持った覆面の集団が劇場の外で反ユダヤ主義を叫ぶ事案が発生した。 米国ではガザ地区への激しい攻撃を続けるイスラエルへの反感を背景に反ユダヤ主義の差別的言動が急増しており、その件数は今年9月までの1年間に前年に比べて3倍増の1万件以上に上っているという(CNN調べ)。 1900年頃の米国の復活を求めるMAGA支持者たちが社会を致命的なレベルにまで混乱させないことを祈るばかりだ。 藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー 1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。
藤 和彦