「安いわけじゃないし、美味しくないメニューも普通にある」「良さは、子供を連れていけるだけ」…。ファミレスが「オワコン化」する裏で進む“大変化”とは?
かつてのように「誰でも」「たくさん」入れる方向から、顧客ターゲットを絞り、ロイヤルカスタマーに満足してもらい、リピートしてもらうような戦略を取る。企業側の取る戦略が「量から質」になるのだ。 二極化戦略とはまさにそうしたことの表れであるが、そんな時代において、これからの時代の顧客は、誰もが「顧客候補」になっていた時代から、むしろ「選ばれる顧客」にならなくてはいけなくなっている。 さまざまな要因が重なってはいるものの、カスタマーハラスメント(カスハラ)による過度な「消費者第一主義」への見直しも、企業と顧客の関係性に変化を促しつつあるだろう。
冒頭の話に戻る。『花束みたいな恋をした』では、明らかに経済的に格差のある主人公2人が、ファミレスを大きな舞台の一つとして親密になる。しかし、その恋愛は最終的に破局し、それぞれは別々の道を歩み始める。今思えば、これは、ファミレスの変化をも予期していたかのようにさえ感じられる。 「一億総中流」が生み出した「みんなの空間」は、うたかたの幻だったかのように終わりを迎え、それぞれの階層の人はそれぞれのいるべき場所に戻っていく。その意味でも、同作品の「切なさ」は今の私たちをめぐる経済状況の切なさと、どこかリンクしているのである。
谷頭 和希 :都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家