台湾、第2のTSMC目指すベンチャーが群雄割拠
ただ、以前はそうした人材がベンチャー企業に就職することはほぼありませんでした。台湾トップ大学の理系卒業生はほとんどが半導体関連、電子機器製造に就職していたためです。加えて、2010年頃から台湾政府は「西進中国」戦略を打ち出し、中国で働くエリートが増えました。これがベンチャー企業の人材不足を招いたのです。 しかし、世界経済におけるベンチャー企業とソフトウェア産業の重要性が高まるにつれ、台湾のイノベーション産業も成長し、成功事例も増えてきました。現在ではハードウェアだけに人材が集中することもなくなってきています。潜在的な成長力の高さ、職場のカジュアルな雰囲気、大企業と比べて個人の能力を発揮しやすいという特長に惹かれた人材が集まり出しています。
このようにして、5年ほど前から台湾の人材、そしてアメリカや中国から戻ってきた帰国組によって、台湾ベンチャー産業には新たな活力が吹き込まれました。 シリコンバレーのベンチャー企業の成功、その最大のカギは巨大市場の存在にあります。魅力的なプロダクトを作ることさえできれば、現地には積極的な買い手がいる。ビッグテックやテック人材は新たな技術にオープンで、生産性を高めるプロダクトの導入に貪欲です。そして、シリコンバレーで成功できれば、英語という世界言語の優位を生かし、世界の英語圏に事業を横展開できます。
残念ながら、このルートは台湾ベンチャーが模倣できないものです。台湾市場の小ささだけではなく、台湾の大企業は新たな技術に対する支払い意欲が低いこともネックです。 加えて台湾で用いられている繁体字中国語の海外市場もきわめて小さい。というわけで、台湾ベンチャーは創業のDay1(初日)から海外市場をターゲットにすることになります。2010年の「西進中国」、2016年の東南アジアブームに続き、現在では「東進」、すなわち日本市場が台湾ベンチャーにとって最初の選択肢となっています。