〈緑内障は運転できない?〉発症でドライバー解雇の必要なし、難しい早期発見と症状進行への理解
労働者の健康をどうやって守るか
今回のNHKニュースでは、「検診で異常を指摘された後、さらに詳しい検査を受けた人は、2022年度まででは4割以下、2023年度では2割にとどまっていた」とも報道されていた。特に対象が職業ドライバーであるので、この結果は悩ましい。どうやってフォローアップを改善できるだろうか。 日本では「常時50人以上の労働者を使用する事業場においては、事業者は、産業医を選任し、労働者の健康管理等を行わせなければならない」ことになっている。しかし、全国ハイヤー・タクシー連合会のウェブサイトによれば、事業規模・車両数規模別の統計で、車両10両までの事業場が1万4319社中9445社(66.0%)、30両までの事業場が1万2093社(84.5%)である。ほとんどの事業場で産業医が選任されていないものと思われる。 産業医がいても、Y.M.さんの知り合いが経験したように、緑内障のゆっくりした進行についての理解が乏しく、すぐに失明や自動車運転に危険な視野欠損と結びつけて解雇を雇用主へアドバイスするという話も聞く。 労働者の健康管理を行う産業医の役割や教育を再考する必要もありそうだ。緑内障の場合、家庭医が眼科医と産業医と連携して症状の進行を継続してフォローアップしていけば、患者の緑内障のマネジメントを保証し、自動車運転の継続も含めて適切な業務をしてもらうことが可能である。 その日のY.M.さんとの診療は、禅問答のような会話で終わった。 「でも緑内障って変な名前ですね。地中海の色からついたって言うじゃないですか」 「コス島にいた古代ギリシャの医師ヒポクラテスが言ったそうなので、地中海の中でもエーゲ海を見ていたのでしょうね」 「『美しすぎると 怖くなる』のどこが緑内障なんでしょう?」 「あ、ジュディ・オングの『魅せられて』ですね。『若さによく似た 真昼の蜃気楼』、緑内障にはまだ謎が多いってことですよ」 「ははは、先生、今度までに調べておいて下さいね(笑)」
葛西龍樹