〈緑内障は運転できない?〉発症でドライバー解雇の必要なし、難しい早期発見と症状進行への理解
「約1割緑内障」の深層
このニュースについて、おそらく多くの視聴者が受け取るメッセージは、「職業ドライバーの多くが視野に異常がある緑内障などにかかっていた。交通事故につながりかねない。危険だ」というものだろう。 しかし、家庭医としては、このニュースの元になる臨床研究のエビデンスが何かをもう少し知りたい。 まず、検診受診者2376人の11.2%にあたる267人の内訳は、緑内障27人(1.1%)、緑内障疑い182人(7.7%)、網膜疾患58人(2.4%)ということがわかった。最初は「職業ドライバー1割が緑内障」ともとらえられかねないニュースだったが、確定した緑内障はそれほど多くはなかった。 しかし検診での「緑内障」と「緑内障疑い」との違いは何だろう。この調査で「眼科検診」としてどの検査を実施したのかは明らかに報道されていない。 22年4月の『患者の意思に沿うため家庭医の卵が学んでいること』で書いたように、「検診」とは「ある疾患によると考えられる症状がまったく無い人に対してその疾患に罹っている可能性がどの程度かを調べること」である。診断をつけることではない。 検診結果だけでなく、その後の精密検査などで診断された結果を含んでいるのかも不明である。 ニュースは視聴者にある固定化したメッセージを伝えてしまう危険があるので、こと医学医療についてのニュースは、臨床研究のエビデンスを可能な限り取材し明示してほしい。
緑内障の有病率
「緑内障」と「緑内障疑い」を加えて、調査対象の職業ドライバーの8.8%になるが、そもそも、日本人成人で緑内障をもつ人がどれだけいるのかという有病率を知らなければ、職業ドライバーが特に一般成人よりも高頻度に緑内障をもっているものなのか判断できない。 緑内障の有病率についてのエビデンスは、02年12月に発表された岐阜県多治見市における市民眼科検診の結果をもとに行われた日本緑内障学会多治見緑内障疫学調査(通称「多治見スタディ」)がよく引用される。 その結果は「40歳以上の成人20人に1人(5.0%)が緑内障」だった(2000年から01年の調査)というものだ。年齢区分別の有病率は、40歳台で2.2%、50歳台で2.9%、60歳台で6.3%と上昇し70歳台では10.5%、80歳以上は11.4%になる。高齢になると有病率が増えることが明らかだ。 ただ、この結果は20年以上前のスナップショットである。現在までに日本では高齢化が大きく進んでいる。 総務省統計局の「推計人口」によれば、この調査が行われた02年10月の総人口は1億2743万5000人、65歳以上の人口は2362万8000人で当時の総人口に占める割合は18.5%だったのに対し、直近の24年2月の推計人口では総人口1億2410万5000人、65歳以上は3622万9000人で総人口にしめる割合は29.2%である。こうした急速な高齢化によって、緑内障の有病率も増加している可能性を念頭におく必要がある。