【40代・50代ご用心!「痔」はお尻の生活習慣病③】肛門科専門外来では、どんな診察&治療が行われるの?
「通常、軟膏の成分には、ステロイド入りの炎症を落ち着かせるタイプと、痛みを軽減するタイプの2種類があります。例えば、内痔核が肛門の外に大きく脱出したまま激しい痛みを伴う『嵌頓痔核(かんとんじかく)』を起こした人には、炎症を取り除くステロイド入りの軟膏や鎮痛作用のある内服薬を処方します。すると2週間ほどで腫れがひいて、徐々に痛みも軽くなってきます。一方、肛門が切れてズキズキと痛いという人には鎮痛作用のある処方を行い、便が硬い人には、便を柔らかくして便通をよくする緩下剤を処方します」 便を柔らかくする薬といえば、一般的には酸化マグネシウム剤が知られているが、高齢者や腎臓の機能が悪い人は、血液中のマグネシウム濃度が異常に高くなってしまう状態に陥る心配があり、「近年では便秘薬の種類が増えてきたので、その人の持病の有無、ライフスタイルなどに応じて便秘薬を選択できるようになりました。併せて、便秘の予防・改善、排便習慣を整える生活指導のアドバイスも行っています」
手術が必要なのは、どんなとき?
薬の処方、食事・排便習慣の改善など、保存的治療をしても症状が長引いたり、悪化してしまう場合は手術を検討する。 「痔核でしたら、Ⅲ度以上(内痔核が排便のたびに肛門の外に脱出し、毎回指で押し戻す必要が出てくる状態)が手術の適応です。飛び出してくる痔核を戻すことがストレスになっている人、QOLに支障をきたし、『内痔核の脱出、指で戻す症状を改善したい』と本人が希望する場合に手術を行います。一方、複数の内痔核があって症状が進んでいたとしても、『私は痔と仲良く付き合っていきたい』と手術を希望しない場合は、無理に手術をしなくてもよいと思います」 そうはいっても、内痔核が大きくなって出たり入ったりすると、「随伴裂肛」(内痔核や肛門ポリープが排便時に肛門の外に引っ張られて、痔核や肛門ポリープの根元の粘膜が裂けてしまう状態)といって、排便のたびにものすごく痛くなるケースがあるのだそう。 「便が硬いことが原因となって裂肛を引き起こす場合は、お通じをよくして便の柔らかさが保てるようにすることで、症状がよくなります。でも、大きな内痔核が肛門の外に出たり入ったりを繰り返し、痔核や肛門ポリープが切れてしまう随伴裂肛のケースでは、原因となっている内痔核や肛門ポリープを切除しなければ、裂肛を繰り返してしまいます。そうした場合は手術するほうがよいでしょう」 また、裂肛を繰り返すために、指が入らないくらいに肛門が狭くなっている人、肛門周囲に「膿のトンネル」ができてしまった痔瘻の人も手術が必要だ。 《こんなときは手術が必要》 ・内痔核を指で戻す状態が続いている、内痔核が戻りにくくなってきたなど、本人が症状をストレスに感じて手術を希望するとき ・裂肛を繰り返したために、肛門が狭くなってしまったとき ・大きな痔核が肛門から出たり入ったりを繰り返し、痔核の根元が傷つく「随伴裂肛」を起こしたとき ・痔瘻になり、肛門周囲に「膿のトンネル」ができてしまったとき
【教えてくれたのは】 高橋知子さん 亀田総合病院消化器外科部長。東京女子医科大学卒業。亀田京橋クリニックにて、全国でも珍しい直陽と肛門の疾患に特化した「女性のためのこう門・おつうじ外来」を担当。専門分野は肛門疾患、排便機能障害、分娩後骨盤底障害。女性たちの便秘や痔、便失禁、直腸脱などのトラブルに対して、専門的な治療とともに生活指導を行っている。 イラスト/内藤しなこ 取材・原文/大石久恵