「石破首相 = 軍事オタク」は本当か? 防衛知識ゼロの他政治家が国を守れるのか? 石破氏を長年知るジャーナリストが“真実”を語る
「暴力装置」問題が浮き彫りにする議員の無知
以前、石破氏にお会いした際、 「軍事の話は石破にまかせておけばいい、という空気が党内にある。だけどね、私が間違えたら誰がそれを正すの」 とおっしゃっていた。石破氏が軍事について何でも知っているという傲慢(ごうまん)な人であれば、こんな発言はしないだろう。 与野党を問わず、軍事の知識に精通した政治家が少ないことが、防衛に関する議論をゆがめている。そのため、国会の質疑でも感情や情緒に基づいた議論が多く見られる。2011年、自民党が野党に転落した際、民主党政権の仙石官房長官が 「自衛隊は『暴力装置』である」 と発言したことに対し、自民党の世耕弘成氏や丸川珠代氏は「暴力装置」という言葉は“左翼用語”であり、差別的で、自衛隊をおとしめるものだと主張した。仙石官房長官は元左翼であるため、自衛隊が嫌いでこのような表現を使ったのだとして、辞職を求めた。しかし、暴力装置という言葉は 「社会学用語」 であり、必ずしも侮辱的とはいえない。それ以来、自衛隊は「実力組織」と呼ばれるようになったが、実力組織といい換えたところで、軍隊や自衛隊が国家が管理した暴力を使用するという事実は変わらない。敗戦を「終戦」と呼び、占領軍を「進駐軍」と呼んで安心するようなものだ。この程度の理解の人たちが議員になり、国会で幼稚な議論を繰り広げていることがはるかに問題である。 確かに、政治が細かなことまで現場に口を出す必要はないし、それは有害だ。しかし、官僚組織が提案した政策を吟味するための知識と能力は必要である。その意味では、石破氏のように軍事の詳細まで理解し、官僚と議論ができる議員を増やすべきだ。
清谷信一(防衛ジャーナリスト)