米大統領選介入が成功した理由:2016年、ロシアはトランプ勝利と「分断」も狙った
冷戦時代、コミンテルンの金で仏「人民戦線」
実は世界では、外国の選挙への介入は決してまれなことではない。旧ソ連は約1世紀前、世界革命を目指し、「コミンテルン」を中心に、各国の共産党に選挙資金を配布した。1936年のフランス総選挙では、コミンテルンからの資金が予算の4分の1を占めていた共産党が社会党なども含めた「人民戦線」を形成し、勝利した。第二次世界大戦後はイタリアなどで米ソの情報機関がそれぞれ支持政党を支援して争った。
岸信介の勝利が米国の国益
冷戦時代の日本の本土と沖縄でも、イタリアと似た形で選挙戦が展開され、CIAが少なくとも4回の選挙で保守派に選挙資金を提供している。 1957年10月、当時の駐日米大使ダグラス・マッカーサー二世(ダグラス・マッカーサー将軍の甥)は、翌年に予想される総選挙に関連して次のような電報を国務省に送付した。 「岸(信介)は米国の目標からみて最良のリーダーである。彼が敗北すれば、後任の首相は弱体か非協力的、あるいはその両方だろう」 つまり、岸の勝利が米国の国益であり、 「アデナウアーの過去2回の選挙と同じように、岸を強化することについて考えるべきだ」というのだ。実は米国は、西ドイツのコンラート・アデナウアー首相の政権維持にかかわる選挙でCIA資金を使って支援していた。 日本の総選挙に対する秘密工作問題が1958年4月11日、CIAの工作を決定する特別グループ(SG)の会合で取り上げられた。その結果を記した文書は公開されていないが、CIA資金が使われたのは確実だ。 それから約40年後、筆者の友人の紹介で会った元CIA工作担当次官補は私に、岸にCIA資金を提供したことを確認した。 SGから2週間後の4月25日、岸首相は衆議院を解散。事前の予想では「自民党不利、社会党躍進か」と言われたが、社会党は伸び悩み、CIAの資金を得たとみられる自民党が過半数を獲得して勝利した。
CIAの金に甘えた自民党
そのわずか3カ月後の7月25日、弟の佐藤栄作蔵相は自分の個人事務所にスタン・カーペンター米大使館1等書記官を招き、翌年の参院選挙に向けて財政支援を要請した。 「ソ連と共産中国は共産主義勢力にかなりの資金援助をしているのは疑いない」というのだ。これに対して、1等書記官は「(マッカーサーⅡ)大使は、日本における共産主義の影響に関しては、保守勢力と懸念を共有していますが、そのような目的での資金援助提供は可能ではない」と述べて要請を断った。 米国に対するこのような甘えが日米関係をゆがめてきた。ただ、こうした裏面史はせいぜい、巨大な同盟国との付き合い方の参考にしかならない、と言える。 日本は、ロシアによる米選挙への介入の経緯をしっかり研究し、サイバー安全保障およびカウンターインテリジェンス(防諜)の強化策を検討する必要がある。