米大統領選介入が成功した理由:2016年、ロシアはトランプ勝利と「分断」も狙った
2014年から米国内にSNSのアカウント
IRAは手始めに2014年6月4~26日の間、ロシア人女性スタッフ2人を訪米させ、2人はテキサス、ニューヨーク、カリフォルニアなど9州以上を回った。彼女らはツイッター(現X)やフェイスブック、ユーチューブなどのSNSを利用するため、米国居住者らに依頼して米国人になりすまし、架空組織や実存する共和党組織の名前でアカウントを次々作成した。 モラー特別検察官の報告書によると、IRAがフェイスブックに設置したアカウントでは、2017年の時点でフォロワー数は「ムスリム・アメリカ合衆国」が30万人、「愛国的であること」が20万人。「安全な国境」が13万人で、投稿が米国民に届いた数は総計1憶2600万人 に上ったと推定されている。 また、IRAなど3組織とプリゴジン氏ら13人 を訴追した2018年2月16日付の起訴状によると、彼らは2016年4~11月の大統領選挙中、SNSなどにオンライン広告も掲載した。「ドナルドはテロを打倒し、ヒラリーはテロのスポンサーになる」「ヒラリー・クリントンは黒人票に値しない」などトランプ候補を称賛し、クリントン候補を非難する広告だ。 これらのアカウントはトランプ候補の集会への参加を求める告知にも使われたという。 実は、『ニューヨーク・タイムズ』や『バズフィード』は2014~2015年にIRAの危険性に関して報道していた。しかし、当時のスティーブン・ホール米中央情報局(CIA)ロシア部長は「公開の場で論議の対象となっており、大した仕事はできない」とIRAに対して警戒の目を向けなかったという。
GRUがサイバー攻撃、ウィキリークスに情報送付
他方、ロシア軍の情報機関、参謀本部情報総局(GRU)はトランプ候補の敵陣営である民主党本部のコンピューターに対してサイバー攻撃を仕掛けた。 2016年6月14日付『ワシントン・ポスト』は、民主党全国委員会(DNC)のコンピューターが前年と2016年4月にロシア国家機関のサイバー攻撃を受けたと報道した。 最初はスパイ工作かとみられたが、翌15日に「グッチファー2.0」を名乗る者がDNCのパソコンに内蔵していた多数のeメールをネット上に公開、明らかに選挙に向けた秘密工作かと当時のバラク・オバマ政権は緊張した。だが、十分な対応策を取らなかった。グッチファーはよく知られたルーマニア人ハッカーの名前で、その名をもじったものと想定され、実際にはGRU自身のことだろう。 GRUは非常に手の込んだ工作を展開していた。2016年3月以降、クリントン陣営の支援組織やジョン・ポデスタ選対委員長、4月にはDNCと民主党議会選挙委員会(DCCC)のeメール・アカウントなど数百のアカウントを対象に、合計数十万通の文書を盗み出していたのだ。 GRUの26165部隊がハッキングして盗み、同74455部隊が盗んだ文書の公開作業を支援した、とモラー報告書は指摘している。 窃取した文書は「グッチファー2.0」や「DCリークス」という別組織を通じて、情報公開サイト「ウィキリークス」に送付した。ウィキリークスはそれ以前も国務省機密文書を公開、当時国務長官のクリントン氏と敵対関係にあった。 2016年民主党全国大会でクリントン氏を大統領候補に指名する直前の7月22日、ウィキリークスはDNCから盗んだeメールをネット上に公開した。 その中に、DNCがクリントン候補を優遇し、対抗馬のリベラル派、バーニー・サンダース上院議員を差別扱いしていたことを示すeメールが含まれていた。DNC委員長が急きょ辞任する騒ぎに発展、クリントン候補には痛手となった。