マイナ保険証“強制”の「法的欠陥」とは? “1415人の医師ら”が国を訴えた「行政訴訟」が結審、11月判決へ
今後、他の「法的問題点」も「紛争化」する可能性
「マイナ保険証への一本化」に関する法的問題点として、本件訴訟で問われた「憲法41条違反」の他にも、学者や弁護士から、地方自治の侵害(憲法92条~95条参照)、必要な医療サービスを速やかに受ける「医療アクセス権」の侵害(憲法13条、25条参照)、情報プライバシー権・自己情報コントロール権の侵害(憲法13条参照)等の問題が指摘されている。 また、マイナンバーカードの取得は任意であるにもかかわらずマイナ保険証に一本化することは、国民皆保険の制度と矛盾するものとの指摘もなされている。 しかし、現時点で、国民がそれらの法的問題点について「訴訟」という形で争うことは認められていない。なぜなら、国民が訴訟を提起できるのは、原則として、自分自身の権利が制限・侵害され、または義務を課された場合に限られるからである。 もし、実際に12月から「マイナ保険証への一本化」が強行された場合、上述した法的問題点が、具体的な「法律上の争訟」として顕在化する可能性がある。それは国にとっても望ましい事態ではないと考えられる。
“国民不在”“現場不在”で「マイナ保険証の一本化」が推進されることの問題点
マイナ保険証への一本化については、法的問題点以外にも、冒頭に述べたように、業務の停滞、利便性やセキュリティ面の問題・課題が指摘されている。 折しも、本件口頭弁論期日と同じ9月19日に、全国保険医団体連合会(保団連)が「2024年5月以降のマイナトラブル調査」の中間集計結果を発表した。約1万の医療機関が回答し、その約7割が、5月以降にトラブルがあったとしている。 「資格情報の無効」「氏名・住所に『●』が出る」などのトラブルの状況は改善されておらず、保険証の廃止を「延期すべき」「保険証は残すべき」との回答が9割を超えている。 ところが、これに対し、河野デジタル担当大臣は同日の会見で、このようなトラブル調査は「百害あって一利なし」と断じた。 憲法が41条で立法権を国会に独占させている理由は、国民の権利・利益を守るためである。それは、マイナ保険証自体に対する賛否とは区別すべき問題と言える。 様々な面から問題が指摘され、実際に現場でトラブルが報告されており、その多くは現行の保険証を廃止せず残すことで解決する。 他方で、マイナ保険証を推進する立場の主要な論拠となっている「なりすまし」「不正使用」の問題については、それがどの程度行われているのかを裏付ける客観的データが乏しいうえ、マイナ保険証導入による防止効果は大きくないとの指摘もある。 にもかかわらず、政府が、国民代表機関である国会に諮らず、実務を担当する自治体職員や医療関係者、医療サービスを受ける患者等の声も聞かず「マイナ保険証への一本化」を進めようとしている現状が何を意味するのか。私たちは改めて考える必要があるだろう。
弁護士JP編集部