マイナ保険証“強制”の「法的欠陥」とは? “1415人の医師ら”が国を訴えた「行政訴訟」が結審、11月判決へ
オンライン資格確認の“強制”に「法律の根拠」がないのは「憲法41条違反」
原告らの主張は、政府が「オンライン資格確認の義務付け」を「療養担当規則」で定めたことが、憲法41条に違反するというものである。同条は「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」と定めている。 国会が「国の唯一の立法機関」ということは、以下の2つの意味をもつ。 ・国会単独立法の原則:国会が「法律」を制定する権利を独占するという原則 ・国会中心立法の原則:国会による「法律」の制定に他の機関の関与を許さないという原則 これらは、法律を制定する権限を、国民代表機関である国会に独占させることによって、国民の人権を守る趣旨に基づく。 そこで、憲法41条の「法律」の意味が問題となる。複数の見解があるが、いずれの見解も、少なくとも「国民の権利を制限し、義務を課する法規範」が必ず含まれることには争いがなく、完全に一致している。なお「国民」には個人だけではなく法人も含まれる。 本件で問題となっているのは、法律ではなく厚生労働省令にすぎない「療養担当規則」で医療機関等に「オンライン資格確認」を義務づけていることが、憲法41条の「国会単独立法の原則」に違反するのではないか、という点である。
国会単独立法原則の「例外」が認められる要件は?
国会単独立法原則には「例外」がある。それは、「現場」をより熟知し専門技術性にすぐれた行政機関に「委任」して政令・省令等で定めさせる場合である。その理由は、人権保障にとって有益な場合等が考えられることによる。 そして、この「法律による委任」は実際には多く行われている。 ただし、単に、政令・省令等に委任する文言があれば合憲になるわけではない。国会による行政に対する「委任」には一定の要件が求められている。 その要件は、「法律で命令等への委任を定めているか」と、「命令が法律による委任の範囲を逸脱していないか」の2つに分けて論じられる。 第一に、「法律で命令等への委任を定めているか」については、判例・学説によれば、委任は「相当程度、個別具体的」に行われなければならない(最高裁昭和49年(1974年)11月6日判決等参照)。 第二に、「命令が法律による委任の範囲を逸脱していないか」という問題である。 この問題については、医薬品のネット販売に関する省令が、薬事法(現・薬機法)の委任の範囲を逸脱し無効であるとした最高裁判決(最高裁平成25年(2013年)1月11日判決)の『最高裁調査官解説』において、以下の4つの考慮要素が示されている。 ①授権規定の文理 ②授権規定が下位法令に委任した趣旨 ③授権法(法律全体)の趣旨、目的、しくみとの整合性 ④委任命令によって制限される権利ないし利益の性質等 なお、上記最高裁判決の当時、最高裁の調査官として「調査官解説」を執筆したのは、奇しくも本件で裁判長を担当している岡田幸人判事である。