多種多様なライバーが活躍。国内最大級ライブコマースアプリ運営企業の代表に聞く「市場の可能性」
昨今、ライブ配信を活用し、商品を販売するライブコマースが注目されている。 ECサイト(Eコマース)とは違い、視聴者はリアルタイムでコメントや質問することができるため、商品の価値や品質をより理解した上で購入の意思決定を行えることが大きな特徴だ。 【写真】2020年9月にサービスを開始した「Peace You Live」 “ライブコマース大国”と呼ばれる中国を筆頭に、海外での市場規模の拡大が著しいなか、日本でも成長が見込まれている。 2020年9月にサービスを開始した「Peace You Live」(以下、ピースユーライブ)は、現在までに流通総額(GMV)は50億円以上、ライブ視聴時間は400万時間に達するなど、日本最大級のライブコマース特化型アプリとして市場を牽引している。 同サービスを運営する合同会社ピースユー 代表の藤瀬公耀(コウヨウ)氏に、ピースユーライブが好調な理由やライブコマース市場の可能性について話を聞いた。(※合同会社ピースユーは株式会社いつもの100%子会社) 「ライブの常時配信」と「販売力のあるライバーのネットワーク構築」が急成長の原動力に ーーまずは、2020年9月にピースユーライブを始めた経緯を教えてください。 藤瀬公耀(以下、藤瀬):コロナ前の2019年前後は、ライブコマース大国である中国を先行事例として、日本の大手企業もライブコマースアプリを手がけていた時期でした。当初は、中国のようにライブコマース市場の伸長が期待されていましたが、日本の商習慣や文化的背景から想定通りの成長につながらず、結果的にほとんどのサービスが撤退していきました。 そして2020年のコロナ禍では、あらゆる業界でオンラインシフトが進み、Eコマース市場も急拡大しました。こうした追い風のなかで、ピースユーライブはライブコマース市場の将来性を見出し、2020年9月にサービスを開始しました。 ーーリリースから3年間で日本最大級のライブコマースアプリとして成長できたのはどのような要因があるのでしょうか? 藤瀬:幸いにもサービス立ち上げ時、過去に別のアプリでライブコマースをやっていたライバーがピースユーライブ登録しにてくれたことで、想定よりも早いスタートダッシュを切ることができました。 ライバーはすでにファンを抱えていたので、配信プラットフォームがピースユーライブに変わっても、ライブ配信を行えば一定の流通が生まれる土壌を最初から築けたのは大きかったと思っています。そこから、販売力の強いライバーのネットワークが次第に広がっていき、安定的なサービスの売り上げを生み出す基盤が構築されていったんです。 また、ライブ配信画面から直接出品されている商品を購入できたりと、ほかのサービスよりも商品購入の導線がシンプルで使いやすかったりするのが特徴です。加えて、「商品」ではなく「人(配信者)」がサービスのホーム画面に出てくるため、“人から物を買うライブコマース”としての最適なUI/UXを提供できているのも、競合優位性につながっていると考えています。 ライブコマースには「ツール型」と「コミュニティ型」があり、前者は自社が運営するECサイトにライブコマース機能を埋め込むツールを提供するモデルです。ピースユーライブは後者にあたりますが、他社との違いで言うと「常時ライブ配信が行われている」という点です。 ほかのサービスでは、月に2~3回といった頻度でしかライブ配信が行われず、イベント利用として使われているのに対して、ピースユーライブは常にライバーが配信を行っているため、「アプリを開けばいつでも商品を買える」という状態を作れています。 これが、ライブコマース市場でポジショニングを確立できた理由だと言えます。 ライブコマースでは“商売人”としての信頼性が求められる ーーピースユーライブでは、年間数百万点以上の商品が購入されているとのことですが、どのような商品ジャンルが人気なのでしょうか? 藤瀬:メインの購買層は30~40代の女性が多く、月間の平均購買単価は3万5000円を超えています。人気の高いジャンルとしては、ライブ配信で商品の魅力や使用感を説明できるアパレルやコスメ、調理の過程や美味しそうに食べるシーンを伝えられる食品が挙げられますね。 “ライブだからこそ伝えられる要素”が多い商品は、ライブコマースと相性がいいと感じています。 ーー実際に活躍しているライバーの特徴について教えてください。 藤瀬:ピースユーライブに登録しているライバーは、実演販売力やトーク力といった要素に加えて「信頼や親しみやすさ」を持っているのが特徴です。あくまで商品が主役なので、そういった要素がなかったとしても売れるんですよ。 SNSのフォロワーがそのまま販売に直結しないので、そういう意味ではインフルエンサーのようにフォロワー数が多くなくても活躍しているライバーも多く在籍していますね。視聴者と同じ目線に立って、自分が商品を使ったときの感想や視聴者の誕生日を祝うなど、ちょっと気遣いができる“コミュニティリーダー”の気質を持った方が多い印象です。 例えて言うなら、商店街に近いかもしれません。地元に根付いたお店の店長がいて、同じ店に来ているお客さん同士で話すといった場の和やかな雰囲気が、オンラインで行われているようなイメージです。 ーーライバーのなかで過去最高の売り上げを出したのはどのような事例ですか? 藤瀬:ジュエリーを販売されているライバーさんが、2日間で2300万円の売り上げを作った実績があります。そのほか、定期的に安定的な収益を出しているのが、アパレルやコスメを扱うライバーですね。ライブコマースは商品に対しての知識や魅力の伝え方が大事になってくるので、いわゆる“商売人”としての信頼性が求められるんです ウィンドウショッピングのような新しい購買体験を提供 ーー他のライブ配信アプリとの違いはどのようなものがありますか? 藤瀬:投げ銭が中心のライブ配信アプリでは、基本的に異性のライバーを推すことが一般的かと思いますが、ライブコマースの場合は同性のファンが多いです。 また、ライバー目線で見た際に「責任の所在がどこにあるか」についても大きく異なります。前者の場合は自分の容姿や喋り、配信企画など、責任が全て自分にあるわけです。他方で後者の場合は商品の品質や紹介の仕方など、自分の人間性以外の良し悪しが左右されるため、ライバーとしては気分の浮き沈みにとらわれずにライブ配信できるのがメリットになっています。 ライブコマースの健全性については、販売力のあるライバーでも、あまり品質の良くない商品を紹介したら全然売れないんですよ。要するに、視聴者は「良いものなら買う」ので、お金を払うことに対しての対価が明確になっているからこそ、それがライバーのモチベーションややりがいにつながっていると言えるでしょう。 ーー企業がライブコマースを取り入れたユースケースがあればお聞きしたいです。 藤瀬:沖縄のディスカウントストア「ビッグワン」とのタイアップ企画では、関東在住のライバーが現地に出向き、店舗内の商品をライブで紹介する取り組みを行いました。2日間かけて実施したのですが、トータルで6000点ほどの商品が購入され、非常に好評だった企画になります。 そのほか、美容業界最大の見本市「ビューティーワールド ジャパン」でも、ライバーが会場に行って、許可いただいた企業の商品をその場でライブ配信しながら販売する試みも行っています。 まるで一緒にウィンドウショッピングしているような新しい体験を届けられたのもあり、この企画も大きな反響につながりました。こうした企業からの引き合いは増えている状況で、弊社でも、販売力のあるライバーと法人案件をマッチングする機会を提供しています。 あとは「在庫を処理したい」というニーズから、ライブコマースを活用する事例もあります。通常、小売店舗に商品を卸ろすと、売れるまでに一定の時間がかかってしまいますが、ライブコマースであればその場で売ることができるわけです。 そのため、期限切れが近いコスメや食品を定価より安く売ることで、効率的な在庫処分が可能になっています。 ライバーを包括的に支援できるMCNの体制を整えていく ーーそれでは、最後に今後の展望について教えてください。 藤瀬:いまはアプリの改善や利用者拡大に加えて、ライバーを包括的に支援できる体制を作っている最中です。ライブコマースをやろうとすると、商品の選定や調達、商品ページの作成、ライブ配信、販売管理など非常にタスクが多く、これらをライバーが自分一人でやっている場合も多いんですよ。 やはり、ライバーには自分の販売力やコミュニケーション能力、商品の訴求力などを磨くことに集中してもらいたい思いがあるので、ライバーの支援に特化したツールを開発し、一人ひとりの売り上げを最大化していくことにコミットしたいですね。 中国でライブコマースが盛り上がった1つの背景として、ライバーを裏側で支える「MCN(マルチチャンネルネットワーク)」をビジネスドメインに置く企業が数百社くらいあるんですよ。 そのなかでもトップランクに位置する企業は、数千億規模の収益を上げているのですが、MCNの立ち位置で事業を行う日本の会社はかなり少ないのが現状です。 当社も、ライブコマースのプラットフォームを提供しつつ、MCNとしての役割も担っていきながら、国内のライブコマース市場を活性化させていきたいと思っています。
古田島大介