「子どものころのストレス」が、大人になってからストレスに対応する力を下げうるワケ
「心身の不調は自律神経が原因かもしれない」「自律神経のバランスが乱れている」などとよく耳にします。そもそも、自律神経とはどのような神経なのでしょうか? 簡単に言えば「内臓の働きを調整している神経」。全身の臓器とつながり、身体の内部環境を守っています。自律神経に関わる歴史的な研究を辿りながら、交感神経・副交感神経の仕組みや新たに発見された「第三の自律神経」の働きまで、丁寧に解説していきます。 【写真】ついにわかった「ジムに行かなくても体力がつく」すごい方法 *本記事は『自律神経の科学 「身体が整う」とはどういうことか』を抜粋・再編集したものです。
「安らぎの物質」オキシトシンの2つの誤解
ストレス反応には先述のFight・Flight・Freeze反応に加え、Tend and befriend response(思いやり・絆反応)といわれる反応もあることが、アメリカの心理学者シェリー・テイラーによって新たに提唱されています。この反応は新生仔を育てている哺乳動物の母親で観察されやすく、彼女らはストレスに際し仲間と助け合って仔を守るような行動をとっているわけです。ストレス時に協力し合うのは人間も同じかもしれません。 Tend and befriend responseには、オキシトシンの関与が指摘されています。オキシトシンには不安を和らげ、ストレスを抑える働きがあるのです。 オキシトシンの生理作用といえば、教科書的には乳汁分泌作用と分娩促進作用。お産のときに働くホルモンですね。なにゆえ女性ホルモンにストレスを抑える作用があるのでしょう? ここで、オキシトシンに関する2つの誤解を解いておきましょう。 まず、オキシトシンというのは女性に特有のホルモンではありません。たしかにオキシトシンは出産と授乳時に一時的に増えます。しかし通常の状態であれば、男性でも、子どもでも、お年寄りでも、同じように分泌されているのです。 オキシトシンを分泌させる因子としては、授乳を分娩以外に、マッサージなどの触刺激、親しい人との会話、共感などが挙げられています。オキシトシンの研究で知られるスウェーデンのシャスティン・ウヴネース・モベリは、オキシトシンを体内で作られる「安らぎの物質」とよんでいます。コルチゾールのストレスホルモンに対して、愛情ホルモンとよばれることもありますね。 もう一点、オキシトシンの働きはホルモンに限りません。神経伝達物質としての働きもあるのです。視床下部にはオキシトシンを含む神経(オキシトシン神経)が多く存在し、その軸索は脊髄の交感神経が出ている部位にも延びています。オキシトシンの投与によって循環反応や性行動など自律神経反応が起きるのはこのためです。 オキシトシン神経の軸索は脳内にも広く分布しています。この点で、オキシトシンは副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)とよく似ていますね。オキシトシンがストレスを抑える仕組みにはいくつかの神経が絡んでいるとみられますが、CRHを抑える系もあるようです。