「子どものころのストレス」が、大人になってからストレスに対応する力を下げうるワケ
子どもの頃の虐待が、発達や記憶にも関係する?
子どものときの発達環境が、大人になってからのストレス対応力に影響することが、近年わかってきています。たとえば、先のテイラーによれば、周囲で言い争いが多かったり、いつも無視されたりするような中で育つと、大人になってからストレスに対応する力が下がり、結果的に成人後の疾病につながりやすくなるというのです。 1997年にカナダのマイケル・ミーニーらによって行われたネズミの実験は、発達環境とストレス対応力をみる研究の発端になった仕事とされています。自律神経とは関係ありませんが、第6章で紹介する腸管神経系の実験に関係することから、簡単に触れておきましょう。 母親によく世話をされ、育てられた仔ネズミと、母親からあまりかまってもらえなかった仔ネズミを、大人のネズミになってから比較しました。大人になってから両者にストレスを負荷すると、小さいときに世話をされたネズミのほうがコルチコステロンという副腎皮質ホルモンの分泌が少ないという結果が得られています。つまりこのネズミは負荷された刺激をあまりストレスと感じていない、ストレスに強いということです。 一方、小さいときにかまってもらえなかったネズミは、ストレスに対して過剰にコルチコステロンを分泌します。つまりストレスに大変敏感なわけです。かまってもらえなかったネズミはストレスに弱いだけでなく、記憶の低下もみられたということです。 さらに連載記事<意外と多い…1日に分泌される「唾液の量」と「その種類」>では、人間の唾液の仕組みについて詳しく解説しています。
鈴木 郁子(歯学博士・医学博士・日本保健医療大学保健医療学部教授)