東京ドームのムードを一変させた「7回の男」上原浩治の影響力
凱旋帰国した巨人の上原浩治(42)の登場で東京ドームの空気が一瞬にしてガラっと変わった。地鳴りのような歓声。ライトスタンドには「おかえりなさい、上原浩治」の横断幕が出た。2008年11月の日本シリーズの西武戦以来、実に10年ぶりとなる本拠地マウンド。メジャー時代から使っている登場音楽「sandstorm」が響くと興奮は最高潮に。総合格闘技「PRIDE」で活躍したヴァンダレイ・シウバの小気味いい登場曲だ。 「オープン戦なのにだいぶ緊張していた」と、試合後、上原はコメントしているが、その表情からも緊張感が伝わってきた。 先頭の“粘り屋”、日本ハムの中島卓也に対して初球のストレートが上ずって高めに抜けた。メジャーのマウンドとは明らかに違う。傾斜が小さく柔らかい。戸惑いがあったのだろう。だが、スプリットを3球続けると、中島はファウルが精一杯。最後は外へストレート。スプリットか、ストレートか。迷った中島のバットは動かなかった。見逃しの三振。続く西川遥輝には、外角低めのストライクゾーンギリギリに落としたスプリットがボールと判定されて四球で歩かせたが、しっかりと素早い牽制で塁に釘付けにした。 松本剛に対しては、2球続けて変化球がコントロールできず、手元と足元を上原はしきりに気にしていた。それでも、最後は外のストレートで押し込む。ライトフライ。二死一塁となって、昨年、4割打者の夢を追った近藤健介には、スプリットでカウントを整えて、最後は、またストレートで芯を外してセンターフライに。 上原が駆け足でマウンドを降りると期せずして「上原コール」が起こった。ベンチ前で捕手の小林誠司、そして阿部慎之助らとハイタッチ。上原らしさを十分にアピールした22球だった。 試合中のフラッシュインタビューに上原は汗だくになって現れた。 「1イニング持つかも不安でした。終えることができてよかったです。全部、(ストレートが)高めに抜けていたから、そこを修正したいです。(大声援だったが?)シーズン中にもらえたらうれしいですね」 東京ドームの観客数は、4万6297人と発表された。オープン戦でのカウントが始まった2006年以降での最多入場数となった。ドームの外では「当日のチケットはすべて売り切れました」のアナウンスが流れた。 超満員になった理由が、上原目当てだったのか、欠場となった清宮幸太郎目当てだったのか、それともナイター興行が影響したのかはわからない。だが、Bクラスに終わった昨季。東京ドームに一度として、こういうボルテージはなかった。高橋監督は、チームスローガンを「奮輝」としているが、まさに新しい風を上原が運んできた。シーズンで7回を任される予定の上原が、毎回、こんな雰囲気を作りあげてくれれば、勝ちムードが、浸透することは間違いない。「マツダスタジアムの大応援が味方になっている」と、広島の緒方監督は、常日頃口にする。昨年、日本シリーズ進出を果たした横浜DeNAのラミレス監督も、同じく横浜スタジアムの空気と風がチームを後押ししてくれると断言する。上原が「7回の男」として結果を残し続ければ、東京ドームの雰囲気が、上原登場と共に、変わっていく可能性がある。 高橋監督も「良かった。牽制も早い。メジャーとボールが違うと言っていたが、修正して(スプリットも)操れていたんじゃないか。方程式として期待している。違う立場で上原が投げているのを見るのは不思議な感じがしたが、投げている感じは、(10年前の)ジャイアンツ時代と変わっていない」と絶賛した。 この日、高橋監督は、6回に沢村拓一、7回上原、8回マシソン、9回カミネロの新・勝利の方程式をお披露目した。マシソンがレアードに一発をくらったが、不在だった「7回の男」に、上原がはまることで、巨人に昨年まではなかった形ができた。沢村拓一も6回を9球でピシャリ。オープン戦は4試合連続無失点で安定感がある。 。