東京ドームのムードを一変させた「7回の男」上原浩治の影響力
電光掲示板に示された上原のストレートの最速は133キロだった。 「みんなにボールが遅いと言われた」と、試合後、上原は自虐気味に笑ったが、メジャーでは「ストレートが遅いのに三振の取れる投手」が、上原の代名詞だった。キャンプ合流に遅れ、腕の振りや体の躍動感を見る限り、まだベストからは6割程度の出来だろうが、その技術がNPBでも十分に通用する見通しは立った。 データ化がより複雑、細分化しているメジャーでは、「バーティカル・ムーブメント」という指標があり、リリース時点からボールの軌道がいかに下がらないかという数値を出している。上原のそれはメジャーの中でも上位にあった。つまりスピードガン表示が出なくとも打者から見てボールが「伸びる」「来ている」と感じるのだ。加えて、ストレートと、まったく同じ腕の振りで、同じ軌道でバッターに向かってくるスプリットがある。打者にすれば、伸びてくるストレートと落ちるボールの見分けがむずかしい。しかも上原は、スプリットの落ち方や、落ちる角度までを自由自在に操り、カウント球にも勝負球にも使える。 そして、ただでさえ、スピーディーな投球フォームを、1球1球、微妙に変化させてくる。この日、日本屈指の高打率を出せる近藤でさえ翻弄されていた。ストレートの体感は、おそらく140キロ後半にも思えたのだろう。まだ「滑るボール」から「滑らないボール」への修正に四苦八苦しているようだが、慣れれば、メジャー時代よりもスプリットは切れるだろう。後は、傾斜のないマウンドにどうフォームをアジャストさせて、上原特有の高い位置でのリリースをどうキープしていくか。 「残り3試合のうち1試合は投げたい」 上原は、最終調整方法を明らかにしたが、本番の中で、徐々にペースアップしていくつもりなのだろう。それくらいの経験と技術が上原には備わっている。少し違和感のある背番号「11」で巨人に復帰した上原がBクラス脱出の使者になるのかもしれない