技術を超えた勇気。なぜ井岡一翔は10回TKO勝利で日本人初の4階級制覇に成功したのか?
勝因は技術を超える”勇気”だった。 これまでの井岡はステップバックのスピードを使いながら相手との距離を自分の間合いにしてポイントを奪う出入りのボクシングを極めてきたが、この夜は、相手の内側に飛び込んでのブロック、ダッキング、ウィービングというディフェンス技術を駆使して上体を揺らし紙一重のタイミングでパンチを交わして攻勢に打って出る危険な戦法を取った。パリクテの得意の打ち下ろしの右やアッパーをブンブンと空振りさせ続けた。被弾の危険と背中合わせだが、そこは6センチもリーチの長い相手の死角だった。そこから左右のパンチにボディを絡めたスピード溢れるコンビネーションブローを打ち込んでいく。イスマエル・サラストレーナーと繰り返し練習してきた戦略だったという。 練習場所を提供していた元WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者の内山高志氏も「ビビらずに前へ前へ。自分を貫いた。パリクテはパンチがあった。引いたボクシングをやったらいいように打ってくる。あのディフェンスはサラスとずっとやっていた練習。打った後にウィービング、そして動く。絶対に連打をもらわない。練習通りのことが試合でできていた」と評価した。 練習でできる技術も勇気がなければ試合で昇華しない。 「空振りが続くとパリクテみたいな大きい選手はやり辛くなってばてる。ああいうボクシングをしたから、後半に一発当たって相手が効いてまとめることができた。自分から前へ行ってないと、ああいう結果はない。パリクテのアッパーは強い。勇気がいったと思う」 内山氏は、勇気を称えた。パンチに空を切らせることでパリクテの手数もどんどん減っていく。その勇気のいる戦略を井岡は6ラウンドまで我慢して続けた。 「パリクテは前に来ると強い選手。戦略としては逆に下がらせる展開を作りたかった。左を突いてプレッシャーをかけていったが、思ったよりも距離も遠くパンチもあったし懐も深かった。テクニックもそこそこあって入っていくのが難しかったが、勇気を出してやってきたことが出せた」というのが井岡の説明。 対峙する際のポジションにも工夫があった。右足に若干重心を置いて、右へ動き、常に相手から右斜めの位置をキープしながらストレートの被弾のリスクを軽減していたのである。 勇気ある一歩についてなぜできた?と問うと、井岡は、こう答えた。 「負けられないから。勝つために何をやるか。だから一歩踏み入れた」 リズムをつかむと8ラウンドからは逆に足を使い、従来の出入りのボクシングでポイントを重ねた。井岡は”2つの顔”を見事に使い分けてパリクテを攻略したのである。 だが、試合後のパリクテは負けを素直に認めなかった。 「なぜあんなに早く試合を止めるのか。嫌な気分だ。あそこまで私がポイントでは勝っていたはずだ。井岡のパンチがどうだったか? いやオレはレフェリーにダメージを与えられたんだ」 何をか言わんやである。ジャッジペーパーを見てみると9ラウンドまで1人が88-83、2人が87-84でいずれも井岡を支持していた。