技術を超えた勇気。なぜ井岡一翔は10回TKO勝利で日本人初の4階級制覇に成功したのか?
2017年の大晦日に電撃的に引退会見を行った井岡は、わずか7か月後に現役復帰を宣言した。その際、「日本人初の4階級制覇」を目標に掲げた。 昨年9月にはロスで開催された「スーパーフライ3」で復帰勝利をつかみ、大晦日にマカオでドニー・ニエテス(フィリピン)とのWBO世界スーパーフライ級王座決定戦に挑むが1-2の判定で屈し4階級制覇はならなかった。その後、ニエテスが王座を返上したという運にも恵まれ、Reason大貴ジムへの移籍も叶って、3月に日本のライセンスを再取得、復帰即4階級再挑戦の舞台が整った。だが、それは絶対に負けらないというプレッシャーとの戦いでもあった。 「相当なプレッシャーがあった。やるといってボクシングに足を踏み入れた以上、後戻りはできないし、口だけでは終われない。リングの上で証明するしかない。一度引退して復帰してより大きなことを言った。でも大晦日に負けた。ただならぬ気持ちで人生をかけた」 試合前、内山氏は「一翔の方が絶対強い。自信を持って堂々と戦え」とメールを送った。 「彼は思い悩んでいた。応援してもらっている方に勝って恩を返したいと」 責任感がプレッシャーに変わっていた。重圧に勝つ手段は「1日、1日、明日のことを考えず今日だけを全力で」トレーニングをすることだった。壮絶なる日々の積み重ねである。 負けたら引退――井岡は、そういうネガティブなことも考えなかったという。 「勝つことしか考えていない。だからこそ追い詰められた」 そして、もうひとつの支えが、歌手の谷村奈南さんと離婚後、新しく2人で歩み始めた元モデルの彼女のお腹に宿っている新しい命への誓いだった。 「生まれる前にチャンピオンとして迎えてあげたかった。それはモチベーションだった」 秋にはパパになる。 そして「この試合が終わってからと……」と近々入籍する考えであることを明らかにした。 4階級制覇のベルトは、とてつもなく重たい。 「自分ながらよくやったと思う。一生の財産。新たな歴史を刻んだ」 そしてこうも言う。 「わかりやすく証明するのは、この道しかなかった。他のボクサーと同じことをしていても一緒にしか評価されない。違うことをして自分がやりたいことをやって。評価を求めているわけじゃないが、応援してくれる人にちょっと違うところを見せたかった」