技術を超えた勇気。なぜ井岡一翔は10回TKO勝利で日本人初の4階級制覇に成功したのか?
プロボクシングの男女トリプル世界タイトル戦が19日、千葉の幕張メッセで行われ、WBO世界スーパーフライ級王座決定戦では、同級2位の井岡一翔(30.Reason大貴)が同級1位のアストン・パリクテ(28、フィリピン)を10回1分46秒TKOで下し日本人初となる4階級制覇に成功した。 彼が4階級王者となるべき資格を問われたのは7ラウンドだった。 ポイント勝負では劣勢だと踏んだのだろう。パリクテは至近距離から足を止めて猛ラッシュを仕掛けてきた。 「何発かで止まるかなと思ってブロックしていたが、ずっと連打してきた。勝負にきたと思った」 ガードの上からでも体格に勝るパリクテのパンチには威力があった。 「脳が揺れた」という。 「焦った。会場もざわついたから、オレやばいんか?と思った」 幕張メッセのイベントホールを埋めたファンの悲鳴が聞こえていた。足元が狂ってスリップダウンを喫したほど。防戦一方。だが、井岡は2分過ぎから反撃に出る。 「ここで打ち勝たないと勝てない。僕も覚悟を持って思い切り打ち合った」 左フックからボディを執拗に。打ち疲れたパリクテに左右のストレートがヒットした。 「ボディも効いていた。下がらずに打ち勝てた。あれで相手の気持ちも折れたかなと」 パリクテが圧倒的に攻めたラウンドだが、ジャッジの一人は井岡の反撃を支持していた。 「大晦日のこともあってハッキリと白黒をつけたかった。ここで打ち勝っていかないと。いままでは技術だけ。勝負するときに勝負しないと(ダメ)という気持ちがあった」 井岡は復帰前の彼とは違っていた。 8、9ラウンドとバタっとフィリピン人の圧力が弱まった。井岡は足を使う。左を上下に散らし集中力を切らさず懸命に動きながら攻めていく。スタミナの差は歴然だった。 運命の10ラウンド。 「警戒されて合わすのが難しかった」という右のカウンターが、まともにパリクテの顔面を捉えた。パリクテが下がった。そのサインを見逃さない。 「効いたとわかった。ここしかないと」 井岡は左のボディのダブルから右。ドタドタとよろけるように後退させると身長で4センチ差あるパリクテを見上げるようにして上に向かって打った。そこから左、右、左、右……の16連発。すべてが的確にヒット。ダウンシーンはなかったが、棒立ちになり反応ができなくなったと認めたレフェリーは、2人の間に割って入りTKOを宣言した。 観客は総立ちになっていた。握り締めたパンフレットを振りかざしながら。 我を失った井岡はコーナーに上がろうとして一度、足を滑らせた。 そして絶叫。井岡は、うんうんとうなずきながら泣いた。 「試合前からいろんな感情がこみあげてきて泣きそうになっていた。震い立つものは常にあった。ずっと追い詰められていた。これだけの舞台を用意していただけるのは限られた人だけ。その喜びを噛みしめ感謝をもって結果で伝えたいと思っていた。久しぶりの日本。力をもらった」 臙脂色のベルトを腰に巻く。 「見せたかった景色を見せられた。ベルト?いろんな意味で重たい。大晦日に悔しい思いをして、このベルトを取るためだけに生きてきた。4階級制覇は、簡単ではなく険しい道だったが、大晦日の続きをこういう形で意味があることを証明できた」 感動と興奮は、8年前の2月にWBC世界ミニマム級王座を初めて手にして以来のものだという。