超小型、イーアクスルに9機能統合…アイシンが電動化時代に磨く技術
アイシンが電気自動車(EV)をはじめとする次世代車向け製品のバリエーションを増やしている。自動車部品や電子制御技術の知見などを掛け合わせ、車の電動化や知能化に関する技術を磨く。車体、走行系、パワートレーン(駆動装置)とあらゆる部品を手がけてきた同社が、電動化時代もクルマ全体の高機能化に貢献する。(名古屋・増田晴香) 【写真】アイシンが開発する超小型イーアクスル「Xin1」 モーター、ギア、インバーターを一体化した電動駆動装置「イーアクスル」については、電動車の多様化を踏まえ、顧客の要望に応じた幅広い製品を開発する。超小型タイプのイーアクスルをベースに、車載充電器や熱マネジメントデバイスなど九つの機能を統合した「Xin1」を試作。2027年に投入予定だ。 各機能を統合していないものに比べ、占有スペースを6割、質量を4割削減する。報道陣向けに開いた試乗会では、日産の軽EV「サクラ」を改造した車両にXin1の試作品を搭載。配管などを減らして大幅な省スペースを実現し「車室空間を広げるなどデザインの自由度を高められる」(アイシン担当者)という。 ソフトウエアや制御でクルマの価値を高める動きが加速する中、アイシンは回生協調ブレーキやステアリングシステム、電子制御サスペンション(AVS)、イーアクスルなど各種デバイスのセンシング情報を活用し、地図情報と連携した統合制御に挑戦する。コーナーの曲率や路面の勾配などの情報をアップロードし、地図と結び付ける。この蓄積されたデータにより地図が高精度化され、最適な車両制御で電費性能向上や安全・安心な走行を可能にする。 例えば急カーブがある場合は事前に通知。ブレーキで発生する電気を効率良く回収できるよう、そのコーナーに応じた減速プロファイルを生成し、アクセルを離すと自動で減速する。電費性能が改善するほか、急ブレーキを防いで安全性も確保する。30年までに実用化を目指す。 走行時に発生する空気抵抗を下げる「空力デバイス」も、電費性能の向上に貢献する技術の一つだ。グリルシャッターや可動の電動ステップ、タイヤ前方の整流板などを開発。これらのデバイスをオンにすることで、コーナリングや車線変更時のステアリング操作の安定性を高められる。航続距離の延伸だけでなく思い通りのハンドリングにもつなげる。 スムーズな乗降もクルマの知能化で実現する。高齢者や子ども連れ、買い物の荷物で手がふさがっている場合などドアの開閉操作が難しいケースがある。そこでドアの外側にカメラを設置し、人の目線や歩く方向などから「乗り込みたい意図」を先読みで把握。操作なしで自動でドアが開く技術を提案する。 センサー技術を用いて社会課題の解決にも取り組む。「車室内見守りシステム」は車内に置き去りにされた幼児を電波で検知するもので、既に幼稚園バスに採用実績がある。一つのセンサーでカバーできる範囲が広いことや、死角となる場所に隠れていても微小な呼吸の動きで検知できることが強み。25年以降に乗用車向けの販売も予定する。 アイシンは既存の幅広い製品群や工法を生かし、次世代車向け製品の開発に挑む。同社の山本義久取締役執行役員は「(主力製品である)トランスミッション(変速機)の延長線上にあるイーアクスルだけでなく、クルマ全体で商材を増やし顧客のニーズに対応する」と方向性を示す。