【高校野球】チームの合言葉は「横浜1強」 “横浜高校物語”の筋書きで新たに設定した第4章「冬制覇」
公式戦無傷の15連勝
今秋の明治神宮大会で27年ぶりの「秋日本一」に輝いた横浜高が12月26日、年内の活動を終えた。2020年4月から母校を指揮する村田浩明監督は24年シーズンを振り返った。 【選手データ】阿部葉太 プロフィール・寸評 「毎年、良い1年を過ごしたいと思っている。夏は2年連続で(神奈川大会)決勝で負けて、選手に気づかされた。秋に3大会で優勝できて、成長できた1年。さらに良い成長ができるように来年も、この子たちとともに頑張っていきたい。勝ったら良い年、負けたから悪い年とは言いたくない。成長し続けないといけない。現状にはまったく満足していない」 今夏、東海大相模高との神奈川大会決勝敗退後、村田監督は結成された新チームで「構成作家」として横浜高校物語の筋書きを立てた。 第1章 神奈川制覇 第2章 関東大会制覇 第3章 明治神宮大会制覇 目標に掲げた「完全優勝」で公式戦無傷の15連勝を飾った。チームの合言葉は「横浜1強」。村田監督は「横浜高校ともう、やりたくないという思いにさせるほど圧倒したい」と語る。来年1月24日に選抜選考委員会を控えるが、オフシーズンに入り、村田監督は第4章を設定した。 「冬制覇」 2つのテーマがある。 まずは、体づくり。 「夏に向けたトレーニング。今、やらないと夏に響く。より意識の高い、実戦につながる、動きを入れたトレーニングを継続しています」 村田監督を支える高山大輝部長は「写真映えしない練習ばかりですみません」と言った。基礎基本の徹底。それこそが、「負けない野球」を追求する横浜高の強さ。高山部長は「広く、深い根が張れるように」と付け加えた。ウォーミングアップはたっぷり1時間以上。約10メートル四方で行うボール回しでは、スピードと正確性を求め「ノーミス」を実践。ミスが出れば、容赦ない注意の声が飛び交う。
とことん生徒と向き合って
次に、村田監督が指示を出したのが「私生活が野球につながる」だった。 「あいさつ、掃除です。主将・阿部葉太(2年)以下、最上級生には自覚があり、率先して動き、下級生もついていく。学校、寮、グラウンドのゴミ拾いを本気でやっている。やらされている感がなくなりました」 かつて10年、神奈川県高野連の理事長(専務理事)を務めた同校OB・名塚徹特別顧問は「よく声が出るようになりました。選手たちが自発的に周囲を盛り上げ、集中力がある。環境整備もしっかりしている。村田と高山、この2人でやっていれば良いチームになる」と目を細めた。村田監督とは霧が丘高時代に同僚の間柄で、名塚氏が村田氏を神奈川県高野連の理事に勧めた縁がある。名塚氏は県職員を定年退職した21年4月から母校教員として、再建のため、村田監督を支えてきた。 2019年9月末、横浜高に激震が走った。当時の指導者が不適切指導により解任され、コーチだった高山部長が監督代行を務めた。20年4月、神奈川県立白山高校の監督だった村田監督が横浜高の監督に就任するまで、不透明な状況が続いた。「果たしてこの先、どうなるのか……。不安の中でずっとやっていました。ここまで、長かったです……。村田監督がつくってきたチームが形になっている」。高山監督代行が約半年、チームを預かり、守ってきたからこそ、現在の活動に結びついている。 村田監督は就任以来、とことん生徒と向き合った。21年夏、22年夏の甲子園出場へ導いたが、23年は慶應義塾高、今夏は東海大相模高との神奈川大会決勝で無念の逆転負けを喫した。「苦しかった……」。勝利が宿命とされる名門を率いる重圧に、押しつぶされそうになったが、逃げなかった。「この子たちと勝ちたい」。今秋の新チーム以降は、学校、寮、グラウンド、自宅でほとんどの時間を過ごした。 監督一人では限界がある、と気づいた。村田監督は全責任を背負う現場指揮官として、チーム運営は高山部長に任せ、指導陣には新たな血を入れた。23年に渡邉陽介コーチ(川崎北高、田奈高、川崎工科高で部長、監督)、24年には小山内一平コーチ(大師高で顧問、監督)が就任。卒業生ではない新スタッフを迎え、村田監督は「活性化。新しい風を吹かせたい」と、信頼を寄せる。小山内コーチは投手育成、渡邉コーチにはBチームを任せ、選手層の底上げ、土台づくり。高山コーチは野手をメーンに見て、名塚特別顧問は心のケア。村田監督を頂点に理想の体制となった。 厳しさだけではない。12月21日には学校内の視聴覚室で「お笑い大会」を実施した。全部員が演芸を披露。村田監督が総合司会を務め、保護者も招待し、大いに盛り上がった。主将・阿部葉とエース左腕・奥村頼人(2年)のコンビが特別審査員賞を受賞した。大会後は指導者と保護者による、懇親会を開催した。 「生徒を預かってくれる保護者の協力なくして、横浜高校野球部の活動は成り立ちません。保護者、選手、指導者が一枚岩になれば、強くなる。とても良い時間になりました。絆。求めているチームに近づいている」