【繰り返される電力融通】猛暑のせいでは決してない、電気が不足し不安定化する理由
全国の石油火力設備の今年度の平均想定利用率は14.6%しかありません。利用率が低くても設備を維持しておく必要がありますが、事業者が利益を得ることは困難です。 16年の自由化まで、総括原価主義に基づき利用率が低い設備を維持する費用も、政府の査定の下電気料金で回収されました。しかし、自由化により事業者は卸電力の販売により利益を出すことが必要になり、利用率が低く利益を生まない石油火力の維持が困難になりました。 太陽光発電設備が増えたことで、火力発電設備の利用率は、さらに影響を受けます。FITと自由化が停電危機を作り出していますが、問題の解決は可能でしょうか。
増加する電力需要への対処は
電力需要量は波を打ちながら減少しています。一方最大需要電力は大きくは変わっていません(図-6)。暑い日が増えたことと、エアコンの保有台数が増えているためです(図-7)。 いままで減少が続いていた電力需要ですが、これからは増加に転じると考えてられています。一つは、EV、ヒートポンプが進める電化ですが、もっと大きい需要は生成AIの利用です。 ChatGPTの1回の利用はグーグルの1検索の約10倍の電力を消費します。AIの利用増に伴いデータセンターの建設が必要になります。EVであれば、電力需要があまりない時に充電することも可能ですが、データセンターは24時間稼働します。 当然電力需要量と最大需要電力を押し上げ、その分発電設備が必要になります。誰が設備を作るのでしょうか。 自由化された市場では、将来の電力価格を予想することは困難です。脱炭素の動きも予見は難しく、将来炭素税が導入される可能性があっても、その金額は分かりません。要は、どの発電設備が将来競争力を持つか見通せません。事業者は投資を決断できません。 政策による支援がある再エネ設備だけは増えるでしょうが、再エネでは安定的な供給はできません。データセンターは常に安定的な電力供給が必須です。安定供給実現のため価格が高い蓄電池を大量に導入すれば電気料金は上昇します。 政府は、設備がこれ以上減少しないように設備を維持すれば収入が得られる容量市場を導入しました。一部の新電力は今年の4月から容量市場拠出金の負担を強いられています(<相次ぐ電気料金の値上げ>なぜ、毎月上がるのか?専門家が料金設定や補助金の制度を徹底解説 エネルギー基礎知識(9) )。 しかし、容量市場による支援だけでは将来の収入の見通しが確実にはなりません。事業者は設備の新設には踏み切れません。 脱炭素の時代を迎え、再エネあるいは原子力発電設備がこれから必要になります。9月20日に米マイクロソフトは、19年に閉鎖されたスリーマイル島原発1号機を再稼働させ、その電力を20年間にわたり購入する契約の締結を発表しました。 安定的な脱炭素電源が必要になる以上、再エネに加え原子力発電を中心とした非炭素電源設備新設を支援する制度を早期に実現しなければ、データセンターは日本には設置されず、安定的な電力供給が可能な国に逃げていくでしょう。日本の不安定な電力供給も解消されません。政府の早急な対応が必要です。
山本隆三