QST、イオン加速の世界最高到達速度更新 光速の50%、がん治療装置小型化に期待
量子科学技術研究開発機構(QST)などの国際共同研究グループは、独ドレスデンヘルムホルツ研究所(HZDR)の高強度レーザー施設「Dracoレーザー」を用い、長年超えられなかったレーザーによるイオン加速の世界最高到達速度を更新し、光速の50%のイオンビーム(陽子)発生に成功した。超小型粒子線がん治療装置の実現への大きな一歩となりそうだ。 粒子線がん治療は、患者の体の外側から体内深部にあるがん細胞に向けて高速の陽子や炭素イオンなどのイオンビームを照射し、がん細胞を死滅させる治療法。治療装置には大規模な加速器と専用の建物が必要で、粒子線がん治療装置の普及を阻害する要因の一つとされる。 加速器の大幅な小型化を可能にする技術として、高強度のレーザーを利用して高速のイオンを発生する「レーザーイオン加速」がある。同技術の高度化が、がん治療装置の大幅な小型化につながり、その結果、治療の普及につながると期待されている。 研究グループはこれまで、イオンを効率的に加速する多段階の加速手法を提唱してきた。今回その手法の実証実験を、世界最大規模のレーザー施設で発生できるレーザー出力のわずか50分の1程度の出力というHZDRの小型Dracoレーザーを用いて行った。 レーザー光の条件(時間波形)を最適化して多段階のイオン加速を実現した結果、世界最高速度に当たる光速の50%のイオンビームを、~20マイクロメートル程度の領域で発生させることに初めて成功した。 今後、治療に必要な速度に当たる光速の73%まで炭素イオンを加速することを目指し、超小型の重粒子線がん治療装置の実現につなげる。
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