結局、スター選手が多いチームは本当に強いのか?「野球」と「サッカー」で「まさかの違い」が生まれた理由
無名だった亀井選手がWBC日本代表に選ばれた理由
実力順に選ばずに成功した例として、スポーツは変わりますが、2009年の野球WBCを挙げないわけにはいきません。 2009年のWBCには、イチローや松坂大輔をはじめとしてそうそうたるメンバーが選ばれましたが、その中に1人、無名の選手がいました。当時プロ5年目だった亀井義行(当時・読売ジャイアンツ)です。 亀井はこの当時、レギュラーを確保していたわけではなく、通算96試合5本塁打と、控え選手としての実績しかありませんでした。当時の亀井より実績のあるプロ選手は大勢いました。 そんな亀井が抜てきされた理由は、イチローに何かがあった場合の控えを探していたからです。イチローはチームの中心で、どんな不調でも交代する予定はありませんでした。つまり、出番がない前提で呼ぶ選手が必要でした(実際、亀井の出番は2打席でした)。 だからこそ、原監督の教え子であり、ベンチでチームを盛り上げ、緊急時には代打や代走ができる亀井が適任だったのです。 もし、亀井でなく他の有力選手を選んでいたら優勝できなかったかもしれません。というのも、この大会では決勝までイチローが絶不調。有力選手を選んでいたらサンクコスト効果に影響され、イチローをスタメンから外したくなる誘惑に駆られたことでしょう。 イチローをスタメンから外してしまったら、決勝の劇的勝ち越しタイムリーも生まれなかったといえます。 2009年WBC日本代表は、無名の選手を選出することでサンクコスト効果が生まれることを防ぎ、チームを上手にマネジメントした例といえるでしょう。 実力順に選手を選ぶことが必ずしも正解でないことがわかっていただけたかと思います。監督やスタッフが認知バイアスに影響されず、上手にチームをマネジメントすることが重要と考えられます。 ここまでは、サッカーと野球のチームのメンバー選考についてサンクコストの面から考えてきました。必ずしもスターばかりを選ぶ必要のないことや、実力順に選ぶことが大切ではないことがわかりました。 これらは、一般的なチームビルディングでも活かすことができると考えます。 起業してメンバーを募るとき、社内で新しいプロジェクトを作るとき、就活で学生を採用するとき、私たちは「とにかく優秀な人を集めればうまくいく」と思いがちです。 しかし、そういったスターばかりでチームを作っても、コンビネーションの点でうまくいかない場合や、サンクコストの面でマネジメントがうまくできない場合があることを、このスポーツ事例の知見から主張できます。 レアル・マドリーのマケレレや、2009年WBCの亀井のように、実績や給与という尺度では測りづらくても、チームに貢献している例は多くみられます。 近年は多様性が求められる時代になっていますが、スターをとにかく集めるのではなく、多様な人材を集めることが大切という教訓ともいえるでしょう。 * * * つづく記事〈大谷翔平はアジア人だから「ストライク判定」が不利になる? SNSでささやかれる説の真偽〉でも、スポーツを行動経済学の観点で分析していく。
今泉 拓(東京大学学際情報学府博士課程)