結局、スター選手が多いチームは本当に強いのか?「野球」と「サッカー」で「まさかの違い」が生まれた理由
サンクコストを克服し優勝したヴィッセル神戸
そんなヴィッセルに転機が訪れたのは2023年。 イニエスタが怪我で長期離脱をしてしまいました。その間にチームはショートパスを主体としたサッカーから路線変更。この路線変更がうまくいき、夏にはイニエスタを放出して、パスサッカーとの決別を宣言します。最終的にチームはJ1初優勝を果たすことができました。 イニエスタは間違いなくチームで一番サッカーの技術が高い選手でしたが、他の選手と相性がよかったかといわれると、そうではありませんでした。 ただ、チームで一番技術が高く、一番給与を払っている以上、使わないわけにもいきませんでした。長期離脱するまで起用を続けたのは、サンクコスト効果の一例といえるでしょう。 また、2023年の夏に放出しなければ、相性がよくないことがわかっていても、きっとどこかでイニエスタを起用してしまっていたと思われます。イニエスタを放出して退路を断つのは、サンクコスト効果を避けるうえでよい意思決定だったと考えられます。 イニエスタを放出して成功したヴィッセル神戸のように、チーム内のタレントの割合を適切に保つことは、強いチームを作るうえで大切だと考えられます。 このタレントの割合を明確に意識していたのが、名将として知られるファン・ハール監督です。 ファン・ハールは2012年、2度目のサッカー・オランダ代表監督に着任します。当時のオランダ代表は、多くのタレントを抱えているのにもかかわらず、欧州選手権で予選敗退をするなど低迷していました。 そこでファン・ハールは、一部の超一流選手を除きメンバーを変更。オランダリーグの若手選手を多く起用し、従来のタレントと若手の融合を図りました。 結果は大成功。2014年のブラジルワールドカップでは死の組を通過し、3位になることができました。 このファン・ハールの例からも、スター選手ばかりを集めるのではなく、適切なスターの割合が重要であることがうかがえます。スターの割合をほどほどにすることで、サンクコスト効果に影響されずに、コンビネーションを生み出す采配ができると考えられます。 タレント過剰効果やサンクコスト効果を考慮すると、ナショナルチームのメンバーを選考する際は、必ずしも選手の実力順に選ぶ必要はないという可能性を提唱できます。 サッカー・日本代表が発表されると「◯◯選手は実力があるのになぜ選ばれないんだ?」という批判が生じます。 多くのファンやサポーターは実力順に選べば最強のチームになると考えがちですが、実際はそうでないかもしれません。監督やスタッフも「◯◯選手を選んだなら使わなければ」と考えて、選手起用や戦術に悪影響を及ぼす可能性もあるのです。