【大田ステファニー歓人】嘘の自分で人に好かれてもしょうもない。“本当の自分”に向き合うとは?
嘘の自分で人に好かれてもしょうもない。適当に生きてくのが苦しくなったから、変わっていった
――作品だけでなく大田さんご自身も、自分に対して正直でいらっしゃる印象を受けます。そういった態度は以前から意識せずともできていましたか? 大田さん どうだろう…。今より若い頃は、いつも嘘ばっかついてたんですよ。人を笑わせるのが好きだったから、面白いことが優先で事実はねじ曲げてもいいって思ってたっすね。呼ばれた飲み会では、その場が盛り上がるようなテキトーな話をずっとしてた。 でも、たまに飲んでないときに真面目な話をすると、「急にどうした?」みたいに言われて、「いやいや、これが本当の自分なんだけど」みたいに、だんだんと本当の自分を誰も知らないことに、虚しさを感じるようになって。その頃から嘘の自分で人に好かれてもしょうもないって思い始めた。適当に生きてくのが苦しくなったから、変わりたくなったって感じですかね。 あと、自分を包み隠さず表現をしてる人の作品が刺さり続けてきたっていうのもあると思います。音楽は虚勢を張った歌詞よりも、自分の弱さとか自分にとってのダサさと向き合って葛藤していることを隠さず書かれた詞に勇気をもらう。『みどりいせき』を書いてるときに心の支えになっていたのは、HIPHOPグループの「SCARS」。メンバーそれぞれのリリックが、自分の内面と向き合ったことをそのまま書いてるのがすごい伝わってくるんですよね。
瞑想してなかったら、もっと感情に任せて泣き叫んだり、キレ散らかしてるかもしんないっす(笑)
――「朝起きたら現世にチューニングするために瞑想をする」と過去のインタビューでおっしゃっていました。どんなきっかけで瞑想を始めたんでしょうか? 大田さん お酒を止めようと思ったときに、瞑想が助けになるかなと思って始めました。今も毎朝30分くらいの瞑想を習慣にしています。お酒を止めようと思ったのは、自分を変えたかったから。酔うと自分の気持ちが大きくなって適当なことを言っちゃうし、体に悪いし、時間もお金ももったいない。 瞑想をすると今の状況を俯瞰できて冷静になったり、心も沈められる気がします。自分、普段から悲しいことがあったらめっちゃ泣くし、イラついたら態度に出るし、あんまりコントロールできないタイプ。というか押し殺す気もない。だから瞑想してなかったらもっと感情に任せて泣き叫んだり、キレ散らかしてるかもしんないっす(笑)。 作家 大田ステファニー歓人 1995年東京都生まれ、東京都在住の作家。『みどりいせき』で2023年第47回すばる文学賞、2024年5月には第37回三島由紀夫賞を受賞。2024年5月に第一子が誕生したばかり。最近では、SNSなどでパレスチナ問題についても積極的に発信している。 『みどりいせき』大田ステファニー歓人(集英社) 学校になじめず不登校ぎみの高校2年生の「僕」は小学校時代にバッテリーを組んでいたピッチャーの 春と再会し、知らないうちに怪しいビジネスの手伝いをすることに。隠語と煙で充満する隠れ家でグミ氏やラメちたちとつるみ、不健全で抗いがたい、鮮烈な青春にまみれていく――。 撮影/Saeka Shimada 取材・文/浦本真梨子 企画・構成/種谷美波(yoi)