<夢への軌跡~22年センバツ丹生~>/下 自主性育む「考える」練習 /福井
県大会や北信越地区大会で好成績を残すこともあったが、これまで甲子園出場にはあと一歩届かなかった丹生。その一歩をどうやったら進めることができるのか。2013年4月から硬式野球部の指導を任された春木竜一監督(49)は選手一人一人が自ら考えて行動できるチーム作りを目指した。 春木監督は同部の元主将で、金沢大在学中に進路を模索する中で高校野球への情熱が再燃し、卒業後、教員に。大野東(現在の奥越明成)、高志で監督を務め、母校の野球部に戻ってきた。 選手が自ら考えてプレーするためには、練習時から自ら考えさせなくてはならない。「自主性を持って練習してもらうには、やりたいと思わせる工夫も大事」と春木監督。就任当初に指導に苦労した経験から、ユニークな練習材料を数多く取り入れている。 その一つが、パイプでつながった2枚の板の上に片足ずつ乗せて前後にクネクネと動かすことで前進する特殊なスケートボード「リップスティック」。「自宅の近所で子どもが遊んでいるのを見て面白いと思った。SNS(ネット交流サービス)なども使い、野球に役立ちそうなものがないか常にアンテナを張っている」と話す。 このボードにうまく乗ろうとすると、必然的に股関節を軸に上半身と下半身をバランス良く使うことになるので体幹が鍛えられ、投打でのスムーズな体重移動に生きてくるという。さらに野球とは異なるスポーツを練習に取り入れることで、その練習をすれば何が鍛えられ、野球にどう生かせるのかを選手たちが自ら考えるようになったという。 例えば、来田竹竜(たける)主将(2年)は送球練習中に選手の気が緩み、ミスが重なって捕球から送球までの動作にスピーディーさが欠けるようになると、練習を中断する。そして、選手を集め、「ミスしてもすぐに切り替えないとだめだ」と注意する。本番の試合でスピーディーな動作が求められる時でもミスしないようにするためには練習から同じようにしなければ意味が無いからだ。「その練習をなぜするのか」を一人一人が考え、理解して取り組む意識が、チーム内に浸透しつつある。 その効果は公式戦で表れた。昨秋の県大会準々決勝の金津戦。2―1とリードしていた九回表の守備で、相手の先頭打者の打球は投手の頭上を越えた。センターに抜けそうになる打球に、田村渉二塁手(2年)が全力疾走で追いつき、一塁へ素早く送球、見事にアウトにした。ただの送球にすぎないが、相手に流れを渡さない大事なプレーだった。「練習の成果が形になった」と春木監督は振り返る。 リップスティックだけではない。バドミントンやキックボクシングなど、春木監督は積極的に他のスポーツを練習に取り入れている。こうしたユニークな練習での成長を求めて丹生の野球部に入る選手も最近は増えてきた。ようやくたどり着いた大舞台で、成果を披露する日を待ちわびている。【大原翔】