がれきを砕いて息子の墓に―― 続くガザへの空爆、戦争と飢えに苦しむ市民にのしかかる負担 #ydocs
壊れた2階建ての自宅の中で、11歳のモハメッド君は崩れ落ちた屋根の破片を集めて、それを砕いて砂利にしている。 「がれきは家を建てるためではなく、墓を建てるために集めている。ひとつの不幸が、別の不幸へとつながっていく」 モハメッド君の父親で、元建設作業員のジハード・シャマリさん(42)は、南部ハンユニスの自宅に使われていた金属を切断しながら、そう語った。シャマリさんの自宅は4月にイスラエル軍の空爆で破壊された。 墓石づくりの作業は困難で、時に気が滅入るものだ。シャマリさんの家族は今年3月、息子のイスマイルさんの墓を建てた。イスマイルさんは家事をしていたところ亡くなった。だがどれほど墓を建てても、パレスチナ自治区ガザに広がるがれきの処理は進みそうにない。 イスラエル軍は昨年10月、ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスを排除するとして軍事作戦を開始。空爆と地上作戦によってガザの建物は次々とがれきの山と化していった。国連は粉々になった建物のがれきと、全半壊した建物を合わせた廃棄物の量は、4200万トン以上あると推計している。 その量は、2008年から昨年戦争が始まるまでの約15年間にガザで蓄積されたがれきの14倍に相当し、2016~17年にイラク軍および連合軍が、過激派組織イスラム国(IS)に支配されたモスルを奪還するために行った作戦で出たがれきの量の5倍以上だという。これは、エジプト最大のギザの大ピラミッド11個分に相当する。そしてがれきの量は今も増え続けている。 3人の国連当局者によると、ガザ当局ががれきの処理方法を検討しており、国連も支援に努めているという。国連主導のがれき管理作業部会は地元当局と協力し、10月からガザ南部ハンユニスと中部デル・アルバラで、道路脇のがれきの撤去を開始するための試験プロジェクトを計画している。 「課題は大きい」と、作業部会の共同議長を務める国連開発計画(UNDP)ガザ事務所長のアレッサンドロ・ムラキッチ氏は語った。「大規模な活動になるだろうが、同時に今始めることが重要だ」 イスラエル軍は、民間人に危害が及ぶことは避けようとしていると主張する一方で、ハマス戦闘員は民間人の中に紛れており、彼らが現れればどこであれ攻撃するとしている。がれきについて質問すると、イスラエルのCOGAT(イスラエル占領地政府活動調整官組織)は、廃棄物処理の改善を目指しており、その取り組みを拡大するために国連と協力する予定だと回答。ムラキッチ氏は、イスラエルとの連携は非常に良好であるが、今後の計画に関する詳細な話し合いはまだ行われていないと述べた。 昨年10月7日にハマスの戦闘員がイスラエルに侵入し、市民ら約1200人を殺害し、250人超を人質にとった襲撃事件の発生を受けて、イスラエルはガザへの報復攻撃を開始した。一方パレスチナ保健当局によれば、紛争が始まってから1年で約4万2000人のパレスチナ人が死亡したという。 かつてにぎやかだった通りは狭くて埃っぽい道になり、その両脇には歩行者やロバの荷車の高さよりも高くがれきが積みあがっている。 国連の衛星データによると、ガザ地区にあった建物のおよそ3分の2、16万3000棟以上が一部損壊または倒壊している。そのうち約3分の1は高層ビルだった。 7週間続いた2014年のイスラエル軍によるガザ侵攻の際、UNDPとそのパートナーは300万トンのがれきを撤去した。これは現在ガザにあるがれきの7%ほどでしかない。ムラキッチ氏は、未発表の暫定的な見積もりとして、1000万トンのがれきを撤去するのに2億8000万ドル(約420億円)かかると述べており、仮に今すぐ紛争が終わってもすべての撤去には約12億ドル(約1800億円)が必要になる可能性を示した。また国連が4月に発表した推計では、すべてのがれきを撤去し終えるまでに14年の歳月が必要になるという。 ムラキッチ氏によるとがれきの中には、パレスチナ保健省の推計で1万人にも上る未収容の遺体が含まれるだけでなく、不発弾も紛れているという。赤十字国際委員会(ICRC)によれば、その脅威は「広範囲に及んで」おり、国連当局者はがれき撤去には深刻なケガのリスクが伴うとしている。 国連環境計画(UNEP)は、ガザの8つの難民キャンプ(一部は攻撃を受けている)で行った調査に基づき、推定230万トンのがれきにアスベストが含まれている可能性があると発表した。アスベストを吸い込むと、喉頭がん、卵巣がん、肺がんを引き起こす可能性がある。世界保健機関(WHO)は、過去1年間にガザで約100万件の急性呼吸器感染症の症例報告があったとしているが、そのうちどの程度が粉塵と関連しているかは明らかになっていない。医師らは、がれきから金属成分が漏出することによるガンや先天異常が今後増加することを懸念している。 ガザのがれきはこれまで港湾建設に使われてきた。国連は今後、がれきの一部を道路網や護岸の強化に再利用したいと考えている。長さ約45キロ、幅約10キロの地域に230万人が密集して暮らすガザでは、UNDPによると廃棄物処理に必要なスペースが不足している。 ムラキッチ氏は、8月12日にパレスチナ自治政府がヨルダン川西岸で主催した会合以降、複数の国がガザ支援に関心を示したと述べたが、その国名は明かさなかった。進行中の取り組みに支障が出るとして匿名を条件に取材に応じた国連当局者は「政治的解決がないままガザ再建に投資してよいものか、誰もが不安を感じている」と語った。 ※この映像は2024年10月6日に配信されました。 (制作:Mohammed Salem, Hatem Khaled, Mahmoud Issa, Emma Farge, Bassam Massoud, Bushra Shakhshir, Cecile Mantovani 翻訳・字幕:新倉由久) この記事はロイターとYahoo!ニュース ドキュメンタリーの共同連携企画です。 #Yahooニュースドキュメンタリー #ロイター