【40代・50代「更年期治療」をアップデート!】フェムゾーンにも更年期がくる! トラブルを防ぐ大事なポイントは、フェムケアで減りゆく「腟内フローラ」を増やすこと
更年期外来で患者さんと向き合いつつ、研究熱心な吉形玲美先生。今回のキーワード「腟内フローラ」に関する研究成果をいくつもの論文で発表。日本で、腟内のラクトバチルス菌の研究をしている数少ない婦人科医の一人だ。今回は腟内フローラについての知識をアップデートしよう。
フェムケアしていない人に起こる、最悪の事態
「こんにちは。産婦人科専門医の吉形玲美です! 今回はフェムケアのお話。フェムゾーンといえば、皆さんの世代は「デリケートゾーン」と呼び、『見ぬもの触らぬもの』とフタをしてきた世代ではないでしょうか。 診察や子宮がん検診でわかるのですが、更年期以降の人ではクスコ(腟鏡)が腟に入らないことが少なくありません。 いわゆる萎縮性腟炎なんですが、腟が乾いて引きつれ、砂漠化している状態。普段から触ってもいない、ケアも何もしていない。だから痛くて入らないんです。 しかも、時々「えっ」という人もいます」 ボウボウになった陰毛が抜けて腟内に入り、奥に入り込んでしまっている人もいると続ける吉形先生。 「腟にとって毛は異物なので、当然おりものが増えるのですが、濃い黄色や茶色のおりものが絡まった毛の塊とともに奥に停滞していることも。 自分でもおりものの様子が違うと気づいたり、チクチクと違和感があるはずなんですが、そういった方はたいしたことはないと思っていることが多いですね。 ちゃんと毎日、フェムゾーンを意識的に洗っていればそこまでにはならないのですけど。抜けかかっている毛があっても、気にせず下着をつけてしまっているからだと思います。 そんな患者さんにこそフェムケアの話をします。アドバイスしたとおりにケアしてくださる方は、その後、必ずよくなるんです」
腟内のラクトバチルス菌は、子宮頸がん予防にも!
「最近、『腟内フローラ』という言葉をよく耳にするようになりましたね。実はこれこそ、私が長年研究しているテーマのひとつなんです。 腸に『腸内フローラ(腸内細菌叢)』があるように、女性の腟内にあるのが『腟内フローラ(腟内細菌叢)』。フローラとは細菌の集まりを指す言葉で、バラエティに富み、お花畑のように見えることからそう呼ばれています。 細菌には善玉菌、悪玉菌などが存在しますが、腟内でおもに働くのは善玉菌であるラクトバチルス属の乳酸菌です。女性ホルモン「エストロゲン」の分泌が十分なうちは、このラクトバチルスにより乳酸が豊富につくられ、腟内の免疫力も高く保てます。 それが閉経後、女性ホルモンがすっかり減ってしまうため、乳酸の産生が低下し、ラクトバチルスの住みづらい環境になり、雑菌が増えやすくなります。フローラの状態が悪く免疫力もがた落ちに。閉経後の腟内はずっとよくない状況にある。このことを理解してほしいのです」 腟内フローラの役割は、第一に粘膜に雑菌を寄せつけない、自浄作用があることだそう。 「腟炎などの炎症が起こりにくい、性病にかかりにくい、妊娠しやすい環境をつくる、またHPV(ヒトパピローマウイルス)という子宮頸がんのウイルスやHIV(ヒト免疫不全ウイルス)などの感染リスクを下げるといった免疫作用があるのも、腟内フローラのおかげ。 これは女性だけに備わった仕組みです。男性の性器にはないため、男性は外から清潔に保つ以外に防ぐ手立てがないのです。ラクトバチルスはさまざまな女性の健康問題と関係していますが、婦人科がんの中でも特に予防効果が期待できるのは子宮頸がんです。これ、すごい役目でしょう? 子宮頸がんの原因となるHPVは、性交渉によって腟に伝播されます。若い女性が保有している率が高いのですが、実は、腟内にラクトバチルスが多い世代(20代後半~40歳くらい)では保有率が下がるのです。そして閉経後にまた保有率が増える。これは、女性ホルモンが減ってラクトバチルスが減り、腟内の免疫力が落ちることによって、鎮まっていたHPVがまた再燃するからではないかと考えています。 HPVはかなり長く潜伏しているので、もしかしたら何十年も前のパートナーからかもしれないし、直近のパートナーからかもしれない。ミドルエイジ以降の新規のパートナーだったら、ご自身のラクトバチルスが少なくなった状態で性行為があれば、感染のリスクは高まります。 腟内にラクトバチルスがいない状態というのは無防備であるということ。この認識がとても大事。閉経後はほとんどラクトバチルスを増やせなくなるので、補っていくしかないんです」