大阪・関西万博を前に、いま忘れてはならない昭和の小説家小松左京の警鐘 70年「人類の進歩と調和」と25年「いのち輝く未来社会のデザイン」―テーマの成り立ちを検証、見えてきた違いとは…
いのちを支える社会の創造/共に輝く生命、輝き続ける地球/人類の進歩と幸福の再考/未来社会をどう生きるか このときに松井は改めて資料を提出し、強調している。「『豊かな人生』を送るために『健康』こそが、人類共通の願い」。結局、大阪府が基本構想で掲げた「人類の健康・長寿への挑戦」のテーマは変更される見通しとなったが、松井は「『健康』の要素は含まれている」と経産省案に理解を示した。2017年3月の第3回検討会で「いのち輝く未来社会のデザイン」が提示され、承認された。 しかし、その後、政府や日本国際博覧会協会に、テーマに込めたはずの哲学を説明しようとする姿勢は乏しいように見える。テーマ決定から7年半以上経過した今も、多くの国民が、このテーマで何を語ろうとしているのか分からない状況が続いている。 ▽矜持 70年万博のテーマ委員会では、日本の立場からテーマを考えるのか、世界の立場から考えるべきなのかが話題となる場面がある。副委員長の桑原は即座にこう打ち消している。「(日本の立場を)押し出すとまずいですよ」。日本はあくまでホスト役に徹し、共産主義国も含めたより多くの国からの参加を促すべきだと考えたようだ。小松は著書で、万博が世界史へ貢献できるという確信がなければならないと説いている。その信念がぶれてしまえば、「大金かけたきれい事になってしまう」。
確かに、実際の展示ではテーマ委員会が重視した「調和」というキーワードは薄れ、ひたすら「進歩」を称賛する内容が多かったという指摘もある。テーマ委員会を構成した知識人と堺屋のような実務者の思想は相いれないのだろう。ただ、それぞれの「矜持」が緊張感を生み、6400万人超の来場者を記録する大成功につながったとも言える。 「インバウンド施策の促進」から構想が始まった25年万博は、現在もその利己的な動機を隠していない。日本国際博覧会協会はこう明示している。「日本の成長を持続させる起爆剤にします」。万博会場の人工島・夢洲には、カジノを含むIR施設が誘致されることもあり、万博が大阪の港湾開発の一手段のようにも映る。 日本国際博覧会協会は「くるぞ、万博。」「想像以上!が、万博だ。」といったキャッチフレーズを繰り出して、関心を集めようとしているが、70年万博と比すると、開催理念を語る言葉が足りていないのではないか。「大金かけたきれい事になってしまう」という小松の警鐘を現実にしてはいけないはずだ。
× × × 小松左京(こまつ・さきょう) 1931年大阪市生まれ。学生時代に「モリ・ミノル」などのペンネームで漫画を描いた。1962年に作家デビューし、日本SF界の旗手として活躍。1973年発表の「日本沈没」は大ベストセラーとなった。主な作品に「復活の日」「首都消失」など。2011年、80歳で死去。