「自分はもう終わりだと思いました」“永瀬すぎる”振る舞いの裏に知られざる苦難…柔道81キロ級金・永瀬貴規(31歳)が陥った「東京後のスランプ」
誤審騒動に疑惑のルーレット――畳の外の話題も大いに紛糾したパリ五輪の柔道競技。そんな喧騒を意に介さず、2大会連続の金メダルを獲得したのが81キロ級の永瀬貴規(31歳)だ。その厳かな佇まいはSNSでは“永瀬すぎる”とも話題に。日本柔道「最強の男」が振り返る、大舞台の記憶とは。《NumberWebインタビュー全3回の3回目/最初から読む》 【貴重写真】“ロン毛”時代の永瀬貴規、見たことある? ウルフアロンにも勝利した筑波大学時代の貴重写真に…「なぜそこに」「永瀬すぎる」話題のパリ五輪集合写真も。この記事の写真を見る。 パリオリンピックでは、永瀬貴規をはじめ、日本人選手の立ち振る舞いが注目を集め、称賛された。しかしその一方で、特定の選手や審判に対する誹謗中傷も際立った。まさにSNS時代を象徴する現象である。 たとえば、誰もが金メダルと信じていた女子52キロ級の阿部詩(24歳)が2回戦で敗退し、泣き叫んでいたことにも容赦のない批判が相次いだ。 東京オリンピック以後、常に2大会連続金メダルを期待されてきた永瀬は、こういった風潮をどう感じているのだろうか。 「賞賛やその対極にあるバッシング。オリンピックは多くの方に見られているからこそ、良くも悪くも感情の沸点を低くするのだと思います。注目していただけることは、本当に有難いことです。けれど、パリオリンピックでは、東京以上の熱視線、エネルギーを感じていました。オリンピックでメダルを目指す以上、周囲からのプレッシャーやそれによって生まれるストレスにも耐える以外ない。私はそう考えています」
リオ五輪では銅メダルも…満足いく結果は出せず
柔道に限らず、スポーツ競技の日本代表は勝てば絶賛され、負ければ地に落とされる存在である。尋常ではないプレッシャーやストレスに抗する驚異の精神を培った永瀬。永瀬を「最強たらしめた」ものは、選手生命をも危ぶまれた大怪我だった。 2016年、オリンピック初出場となるリオオリンピックで金メダルを狙うと宣言した永瀬だが、準々決勝で敗れた。敗者復活戦を勝ち上がり、3位決定戦で勝利し銅メダルを獲得したものの、到底満足のいく結果ではなかった。 東京オリンピックで金メダルを目標に動き出し、同年12月のグランドスラム・東京で優勝を果たす。 しかし、2017年8月の世界選手権4回戦で、永瀬の世界は暗転する。ウズベキスタンのダブラト・ボボノフとの対戦で膝に大怪我を負ってしまうのだ。 「大内刈りをかけたんです。大内刈りは、相手の懐に入って内側から足を払って倒す技で、かけられた相手は、たいてい投げられまいとして体を捻り、倒れ込んで逃げます。もちろんボボノフもそうしたのですけれど、あのときは私の膝が残って、ボボノフの全体重が右膝に乗っかってしまったんですよ」 帰国後の検査で、右膝の内側側副靭帯と前十字靱帯損傷と診断され、医師からは、早急に手術が必要だと言い渡された。 「自分の思い通りに柔道をして金メダルを目指すのなら、手術がベストな選択だと言われました。でも最初は怪我を受け入れたくなかった。もしかして別の病院に行ったら違う診断をされて手術が回避できるんじゃないかという思いがあり、セカンドオピニオンを求めて、再度検査を受けました。けれど、やはり同じ結果だったので、手術をする覚悟を決めたのです」 その覚悟の陰には、恩師である母校の長崎日大高校柔道部監督・松本太一の後押しがあった。怪我を受け入れられず、手術を迷っている永瀬に、松本はこう告げた。 「東京オリンピックは2020年、まだ3年ある。手術をして怪我を治せば、代表選考に間に合う。今で良かったじゃないか」 その言葉を聞いて永瀬は再び東京オリンピックへの道が見えたという。 「松本先生の言葉を聞いて、そうだ、治療して再び代表を目指す時間がある、怪我がこの時期でラッキーだった、と思えたんですよ」
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