孫正義の「しょんぼり反省」は演技?あえて感情を表に出す“超合理的な”理由
川邊 やはり、「インターネット」「ヤフー」「孫正義」という3つの要素が一体であることに、「こんなに面白いものはない」と感じたからです。電脳隊以降は、自分で会社を立ち上げようとは思うことなく、ここまで来ました。 もちろん、孫さんと仕事をすると、だいたい大変なことになります(笑)。しかし、それでも素晴らしいチャレンジをさせてくれたり、例えばPayPayなどのアプリを通じて多くの人が利益を得られるようなサービスを生み出せたりすることができました。 井上 自分1人だけでは大きなプレーはできないですが、やはり孫さんがいることで様々なチャンスを与えられるし、それがより魅力的な選択だったという訳ですね。 川邊 結局、自分を含めたスタートアップの起業家と、孫さんとの大きな違いは「スケール感」ですね。自分だけで超大規模な事業を立ち上げることは、才能や資金の規模的にも難しかったと思います。 しかし、ヤフーやソフトバンクグループに所属していた結果、ファッション通販のZOZOの買収やLINEとの経営統合など、大きな経験を積むことができました。これは本当に楽しかったですし、気がつけば20数年も経ってしまったという感じです。 私は起業家でもありますが、電脳隊の後に設立したピー・アイ・エムとヤフーとの合併以降はサラリーマン経営者としてオーナーシップを持たない経営をしています。そのため、2012年から10年以上は経営者ですが、自分としては2万数千人の社員を導くプロデューサーだと考えています。 井上 そんなに多くの社員をリードしていくのは大変だと思いますが、孫さんから学んだリーダーシップの教訓はありますか?
川邊 それはもう、たくさんありますよ。孫さんのリーダーシップはすごくシンプルです。基本的なコンセプトは「ビジョンを提示し、インセンティブのシステムを設計すること」です。 つまり、みんなに大きな夢を提示し、その夢が実現した場合には、どれだけの報酬が得られるかを最初から設計すれば、社員は必ずついてきます。それがリーダーシップの本質だというわけです。 それに、孫さんは「厳しいリーダーシップが必要だ」ということをよく言います。優しいだけのリーダーシップでは、結果的に組織は崩壊してしまいます。だからこそ、和気あいあいとした雰囲気の中で経費管理がルーズになり、最終的に倒産してしまうよりも、時には「ここはコストを半分に削減する」といった厳しい指導が必要だというのです。 孫さんは、厳しさが最終的に優しさにつながるとも言っています。それができるのは、彼自身も自分に厳しい人だからこそです。
川邊健太郎/井上篤夫