内野聖陽「比較的怒りっぽい性格の僕は、怒りのない人にはあまり共感できない。上田監督とのご縁で作り上げた『アングリースクワッド』」
◆コメディを地でいくような現場 ── 撮影中、上田監督がコロナに感染されたりして、大変だったそうですね。 内野:そうなんです。私の感覚なら「そりゃ撮影はお休みになるだろう」って思ってたんですけど予算の都合なのか(笑)監督のコロナ感染後も撮影は続行となりました。というわけで、監督の自宅と現場をオンラインでつないでリモート演出で撮影することになったのです。 通常は「現場のカメラマンさんが撮る映像」だけでいいのですが、それに加えて「(上田監督のために)俯瞰で撮影現場を撮る映像」の2台のカメラを使って、監督が演出を進めていくんです。 我々現場の役者や助督は、監督の指示で演じる位置を決めるのですが、カメラマンの映している映像と、監督のイメージにずれがあったりして、どうも監督が思い描く画と、現場のイメージがなかなか噛み合わなくて、「現場は踊る…されど進まず」みたいな状態が続いたのです(笑)。それが滑稽で、本当にコメディを地でいくような状況でした。
◆監督の頑固さが愛おしく感じられ 映画制作では、監督の名前を冠して「××組」と呼ばれますが、それは同じチームとして作品を作り上げていくことも意味しています。しかしプロ同士として俳優と監督の立場は違う面があります。その立場を超えた上田監督と内野さんの「作品への愛」とはどんなものだったのでしょうか。上田監督との仕事を通じて、ご自身の中で変化を感じることはありましたか? 内野:役者は自分の仕事である役を演ずることに徹するのが領分です。しかし何十回と打ち合わせを重ねていくと、上田監督が目指したいところが、自然と分かってきます。監督は最初のころ、自分のイメージ通りに役者たちを動かそうとするような「ちょっと力んだ感」があったように思います。 例えばこんなことがありました。私が「この部分は絶対にあったほうがいいんじゃない?(撮っておいたほうがいいですよ)」と、提案をすると、最初は「それはいりません」とサラッと否定する。でも、しばらくすると「やっぱりアリですね。撮りましょう」となる。 その時の私は心の中で「だろ~!やっぱりあったほうがいいよね」って(笑)。でも、監督のそういう頑固さが愛おしく感じられました。先輩の役者たちの意見に流されまいとする意志と、その裏にある葛藤が見えてくるんです。自分の演出を貫きたい、でも先輩たちに翻弄されたくない。そんな気持ちがあったのではないかと思います。でもすべてが彼らしい。 なぜなら、監督は本当によく考えて作る人なんです。真摯に作品と向き合い、徹底的に考え抜く。そんな監督が、コロナで陽性になった時期を境に少しずつ変化していく姿を見守っていました。「丸くなった」というと語弊があるかもしれませんが、色んな意見も取り入れながら、柳のようなしなやかさを取り入れていった。より良い表現を、役者と一緒に模索するスタイルへ移っていったように思えます。こんな言い方をすると偉そうですけどね。でもその様子を見ているとまるで息子の成長を見守る親心のような気持ちになりました。にんまりしながら「頑張れ~」って見ている自分がいて。(笑)
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