史上最も明るいガンマ線バーストの正体が「普通の超新星爆発」と判明
■重元素が見つからないという新たな謎も
一方、今回の観測では、超新星爆発で発生するはずの重い元素がGRB 221009Aの残光からはほとんど見つからないことが判明しました。GRB 221009Aは普通の超新星爆発である、という分析結果を考慮すると、これは大きな謎です。 誕生直後の宇宙には事実上水素とヘリウムしか存在せず、これよりも重い元素は何らかの核反応によって生じたことが分かっています。このうち、恒星の中心部で発生する核融合反応では、最も重くても鉄までの元素しか生じないことが分かっています。 さらに重い元素は、一瞬のうちに核反応が進行するような、非常に高エネルギーな現象でのみ生じることが分かっています。その中でも実態がよくわかっているのは、非常に高密度な天体である「中性子星」同士が合体した時です。 しかし、中性子星が形作られ、お互いが衝突するほど接近するには数十億年もの時間がかかります。実際には、中性子星が合体するのに十分な条件が整っていないであろう初期の宇宙でも重い元素は見つかっているため、重い元素を生成する別のルートがあるはずです。超新星爆発は、そんな別の生成ルートの有力な候補のはずでした。 ところが、普通の超新星爆発であるはずのGRB 221009Aの残光に重い元素が見つからなかったことで、超新星爆発と重い元素を結び付けることに疑問符が付くことになります。この疑問符を除去する仮説には以下のようなものが考えられます。 1. 今回の研究で示された「GRB 221009Aは普通の超新星爆発」という考察は間違いであり、実際には何らかの特異な性質を持っている。 2. 超新星爆発によって生じる重い元素は、長年信じられてきた予測よりもずっと少ない。 3. 観測のセッティングにおかしな部分があり、GRB 221009Aからの重い元素のシグナルを捉えることに失敗している。 4. 観測のセッティングは正しいものの、観測結果の解釈に誤りがあり、重い元素のシグナルを見逃している。 どの説が正しいにせよ、証明するにはさらなる観測が必要です。今回の研究は、GRB 221009Aのように普通の超新星爆発と結び付けられる明るいガンマ線バーストをウェッブ宇宙望遠鏡で観測する動機付けとなるかもしれません。 Source Peter K. Blanchard, et al. “JWST detection of a supernova associated with GRB 221009A without an r-process signature”. (Nature Astronomy) Amanda Morris. “Brightest gamma-ray burst of all time came from the collapse of a massive star”. (Northwestern University)
彩恵りり / sorae編集部