NASA探査機「ボイジャー1」、トラブルから復活へ - 科学データの送信も再開
米国航空宇宙局(NASA)は2024年5月22日、星間空間を飛行している探査機「ボイジャー1(Voyager 1)」から、科学データの一部の送信が再開されたと発表した。 【写真】2024年4月20日、ボイジャー1から5か月ぶりに工学データが届き、喜びに沸くNASA/JPLの会議室 (C) NASA/JPL-Caltech ボイジャー1は昨年11月、コンピューターに問題が発生し、読み取りできないデータを送信するようになり、運用チームが復旧にあたっていた。今年4月には工学データの送信が再開され、それに続いて今回、4つの科学観測機器のうち2つから科学データの送信を再開させることに成功した。 現在は、残りの2つの機器についても復旧にあたっており、今後数週間以内に実施し、ボイジャー1を通常運用に戻したいとしている。
■ボイジャー1の復活 ボイジャー1は、NASAが1977年に打ち上げた惑星探査機で、現在は星間空間を飛行している。 電力は放射性同位体熱電気転換器(RTG)でまかなっているが、発生電力はだんだん弱まっている。また、全部で10個搭載されている科学機器のうち、6個は故障や運用終了などで動作していないものの、現在も磁力計機器(MAG)や低エネルギー荷電粒子計測装置(LECP)、宇宙線システム(CRS)、プラズマ波サブシステム(PWS)の4個の機器が稼働している。 しかし、2023年11月14日、ボイジャー1にトラブルが発生し、探査機の状態を示す工学データや、科学観測機器の科学データが正常に送られてこなくなった。 運用チームは原因究明と対策にあたったものの、ボイジャー1は地球から約240億kmも離れたところを飛んでいるため、地球から信号を送っても、それがボイジャー1に届くまでには約22時間半かかり、さらにボイジャー1から応答が地球に戻ってくるまでにまた22時間半かかる。 気の遠くなるような作業のあと、ボイジャー1は地球からのコマンド(指令)は受信できる状態にあり、データの送信以外は正常に動作していることが確認できた。そして今年3月、NASAジェット推進研究所(JPL)のボイジャー工学チームは、この問題が、探査機に搭載されている3台のコンピューターのうち1台の、フライト・データ・サブシステム(FDS)に関連していることを突き止めた。このFDSは、地球に送信する前に科学および工学データをパッケージ化する役割を担っている。 さらに調査を進めたところ、FDSのメモリーの一部と、FDSのソフトウェアコードの一部を保存する 、1つのチップが機能していないことを特定した。コードが失われたため、工学データと科学データが送られてこなくなったのである。チップが壊れた原因は不明なものの、宇宙の高エネルギー粒子によって損傷したか、打ち上げから長い年月が経過したことで経年劣化し壊れたかの2つの可能性が考えられるという。 チップを修復することはできなかったため、チームはコードを、FDSメモリーの別の場所に保存することにした。 ところが、1つの場所だけでは、コードのセクション全体を保存できるほどの容量がなかった。そこでチームは、変更が必要なコードをセクションごとに分割し、それぞれをFDS内の別の場所に保存するという計画を考えた。これを実行するには、分かれたコードのセクションを調整し、すべてがひとつのコードとして機能し続けるようにするなどの工夫が必要になった。また、FDSのメモリーの他の部分における、新しいコードの保存場所への参照パスも更新する必要があった。 チームはまず、ボイジャー1の工学データをパッケージ化するコードを選び出し、そして4月18日、FDSメモリーの新しい場所にコードを送信した。そして、20日になって探査機から届いた通信を確認したところ、修復が成功したことがわかった。トラブルが発生してからじつに5か月ぶりのことだった。