【書評】戦国武将と宗教との関わりを論じたユニークな宗教史:本郷和人著『宗教の日本史』
「デウス」に充てた単語が「大日如来」
武士と異教徒との関りを論じた章も出色である。豊臣秀吉の治世、今度はキリスト教が脅威となっていく。1949年、フランシスコ・ザビエルが来日、急速に信者を獲得していくが、著者によればその理由は翻訳の問題であったという。「デウス」に充てた単語が「大日如来」。日本人はあっさり受け入れた。 当初、秀吉は融和的だったが、次第に警戒心を深めていく。戦国大名のなかにも熱心な信者が出現し、日本の富が海外へ流出していく。貧しい日本人が奴隷として売られていく状況もあり、秀吉は伴天連(バテレン)追放令を出すに至ったという。 1600年、家康は関ケ原の戦いで勝利してから、大坂夏の陣で豊臣家を滅ぼすまで、実に15年の歳月を要した。それはどうしてなのか。背景にキリスト教徒の存在を指摘する著者の視点は独特であり、その後のキリスト教への弾圧が過酷なものになっていくのもうなずける。 そこから著者の解説は明治維新へと進み、廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)はなぜ起こったか。神道は本当に宗教なのかという考察を展開する。伊勢神宮のお伊勢参りを支えていたのは遊郭だったという指摘も面白い。そうした市井の生活史にも視野を広げるところがこの歴史学者の強みである。 さて、年末年始、神社仏閣にお参りする機会もあるだろう。日本人にとっての宗教とは何か。本書を手に取って考えてみるのもまた一興であろう。
【Profile】
滝野 雄作 書評家。大阪府出身。慶應義塾大学法学部卒業後、大手出版社に籍を置き、雑誌編集に30年携わる。雑誌連載小説で、松本清張、渡辺淳一、伊集院静、藤田宜永、佐々木譲、楡周平、林真理子などを担当。編集記事で、主に政治外交事件関連の特集記事を長く執筆していた。取材活動を通じて各方面に人脈があり、情報収集のよりよい方策を模索するうち、情報スパイ小説、ノンフィクションに関心が深くなった。