新興国向け「マイルドハイブリッド」の時代が始まる 2016年クルマ業界展望
燃料電池、EV、ハイブリッドそれぞれの弱点
さて、では近未来の環境とエネルギー負荷を低減するシステムとはどんなものだろうか? 2016年の最初にまずそれを考えてみたい。ひとまず条件を挙げよう。第一にそのシステムは効果的なものでなくてはならない。そしてごく一部の富裕層にしか買えないような高価なシステムであってはならない。むしろ全ての自動車に採用できるものであるべきだ。さらに自動車の利便性を損なわないものでなくてはならない。そして言うまでもなく高い信頼性と安全性を備えることも必須である。 そう考えると、現時点で最も有力なのは「マイルドハイブリッド」だ。競合する他のシステムに比べてこれらの条件への適性度で大きくリードしているからである。 燃料電池は、環境性能が抜きん出ている可能性があるが、価格と安全性に問題を抱えている。価格は言うまでもないが、安全性の面から見て、水素タンクがあまりにも高圧過ぎるのだ。 トヨタのMIRAIは700気圧の水素タンクを備えるが、この700気圧を1平方センチあたりの圧力に換算すると約720キログラムになる。コンクリート建築の耐圧限界は平方センチあたり30キログラム程度だと言われており、中身が可燃性であるかどうか以前に、何らかの理由でタンクが破損したら、気体の圧力だけでビルが吹き飛んでもおかしくない。あるいは燃料電池車のインフラ維持のために、700気圧の水素をフル充填して輸送中のタンクローリーが事故を起こしたらなどと考えると、そうそう楽観的な未来は描けないのだ。 もちろん、未来への技術トライアルに無謬性を求める気はないので、限定的な台数を販売しながら技術改革を進めていくことはむしろ応援したいが、これを今の段階で自動車の主流として考えることはできない。まだまだ発展途上のシステムだ。
電気自動車も難しい。利便性の面から見て、やはり「電欠」の問題が無視できない。5分程度で充電できるようにならない限り、利便性の瑕疵(かし)が大きすぎる。さらに、全てのクルマを電気自動車に置き換えるのだとしたら、電力インフラの根本的なリデザインが必要だ。どの国もクルマを全て電気に置き換えることが出来るような電力インフラは持っていない。未来への投資として引き続き研究を進めてもらうしかない。 現実的なのはやはりハイブリッドだが、従来型の「ストロングハイブリッド」はそろそろ限界に近づいているのではないだろうか? ストロングハイブリッドとは、簡単に言えばバッテリーだけで走行可能なハイブリッド車を言う。つまりはプリウスの様に、モーターが高出力で、バッテリー容量が大きいハイブリッドだ。 しかし、重さが様々に害をなす移動体に重量物であるバッテリーを搭載することはそもそも効率的に望ましくない。いくら緻密に制御しようと、複雑で重いものを動かすという根本的矛盾は解決できない。むしろ何とかしようと足掻けば足掻くほど、より複雑で重くなるのである。 つまり、ストロングハイブリッドは、今後小さく軽いバッテリーに大電力を蓄えることが出来るようにならない限り、進歩の余地が限定的なのだ。それはバッテリー技術の飛躍的進化に依存しているが、このバッテリー改良の壁に直面してすでに数十年、バラ色の未来は一向に見えてこない。またバッテリーの生産や廃棄の環境負荷も深刻である。複雑で重い仕掛けを凝らしてエネルギー変換効率のベンチマークを叩き出すものとしては今後も注目されるだろうが、当面の間、現状と同程度には富裕層向けの商品であり、新興国の人々のためのクルマに採用できるシステムではないと筆者は思っている。