「めちゃコミ」1300億円売却の真相 名門・帝人がもがく多角化のワナ
23年8月、自社のパーパスを議論する会合には、国内外のエース級の社員約40人が一堂に会した。 「はじめまして」――。内川社長は休憩中に社員同士が握手する様子を苦々しい思いで見つめた。部門間の連携が希薄な象徴と映ったからだ。 内川社長は「素材間競争に勝つための素材別の組織になっており、事業がサイロ化していた」と反省する。帝人を含む繊維メーカーは中国勢などの台頭にさらされるなか、高機能素材や新分野に事業を広げて差別化することで生き残りを図ってきた。ただ「素材のコモディティー化のスピードが速まっている。部門間で連携しソリューションを提供する体制に変える必要がある」(内川社長)。 帝人はかねてソリューション型ビジネスへの転換を目指してきた。繊維子会社の帝人フロンティアはアパレルメーカーに他社の製品を提案したり、要望に応じて糸から生地まで幅広く供給したりしている。内川社長は「アパレルで成功したことを電気自動車(EV)などにも展開したい」と意気込む。培った知見を生かし、樹脂や複合材料などをセットで提案するビジネスモデルを模索する。 縦割り組織は過去の大型買収が期待した成果を上げられていない一因でもある。 17年に約840億円を投じ、米国の自動車向け複合材料メーカーを買収。同事業の拡大を図ったものの、23年3月期に約150億円の減損損失を計上した。事業間の相乗効果を引き出す素地がなければ、成長投資の効果も限られる。 帝人をめぐってはアクティビスト(物言う株主)も動く。旧村上ファンド系のファンド、エフィッシモ・キャピタル・マネージメントは、9月までに帝人株を7.67%まで買い増した。「内容や時間軸について私たちの考え方を説明しており、理解を得られていると思う」(内川社長)というが、成果が出なければ火種となる可能性もある。 みずほ証券の山田幹也シニアアナリストは「帝人は求められる財務体質や企業文化が異なるマテリアル(素材)とヘルスケアを併せ持つ事業構造だ。その不利益を上回る合理的なシナジーなどが示されない限り、納得しづらい」と指摘する。 特性の異なる事業を運営しながら、いかに資本市場の期待に見合うリターンを出せるか。ドル箱だっためちゃコミの売却は、名門・帝人が多角化経営からの転換にもがいていることを改めて浮き彫りにした。
梅国 典