督促状の入った封筒は届くたびに色が変わり、最後には真っ黒になった。選んだのは19歳での自己破産だった 成人年齢引き下げから2年、児童福祉関係者が「債務トラブルはますます増える」と断言する理由とは
自立援助ホームは社会経験を積みながら自立を目指す目的があり、入所者本人の意思を尊重するのが基本的なスタンスだ。特に加藤さんたちは社会生活を普通に送れるようになってほしいとの考えから、個人を拘束するような厳しい禁止事項は設けていない。 それでも、事態を重く見た加藤さんたちはケンを取り巻く状況に介入することにした。「お金の問題が大きかったはず。行き詰まってしまったんでしょうね」 ケンは2022年の9月末、自立援助ホームを飛び出した。彼は日記に、当時の心境を振り返ってこう書いている。「練炭も買って、どん詰まったら死んだらいいと準備していた。死のうと思っていたのに死ねなかった」 加藤さんたちは11月中旬、関東地方にいたケンを迎えに行った。友人の家などを転々としていた。その時には自身の名義で、新品のiPhone7台を契約していた。転売が目的だった。松岡さんが漏らす。「成人年齢の引き下げで、契約だけでなく、売ることもできるようになりました。これまでは大人の同伴が必要だったので気付くことはできたのですが、それも難しくなりました。新品を何台も買ったり、売ったりしに来る若者を見て、携帯電話会社の側は『おかしい』と思わないのでしょうか」 ▽弁護士が示した2つの方法
12月、ケンは債務整理に向けて日本司法支援センター(法テラス)と契約した。弁護士からは2つの方法を提示された。借金の額を確定させて毎月一定額を返済する「任意整理」か、借金を全額免除する「自己破産」だった。ケンは松岡さんらと相談の上で自己破産を選択した。およそ5年間はクレジットカードを作れなかったり、官報に名前が載ったりするといったデメリットがあった。 それでも、収入がなく、任意整理を選ぶ余地はなかった。松岡さんはこう振り返る。「官報を見る人は少ない。それならカードが使えないことを逆手に取って、現金での生活を覚えさせる方がましだった」 最終的にケンには約150万円の借金があることが分かった。加藤さんたちはもっと高額になっていると想像していたが、契約からの期間が短く、利息もそこまで膨らんでいなかった。 自立援助ホームは手続きに必要な書類の整理や家計簿の作成、弁護士との面会の付き添いなどのサポートを提供した。その甲斐もあってか、ケンの破産手続きは2023年9月末、比較的早期に完了した。まだ19歳だった。