督促状の入った封筒は届くたびに色が変わり、最後には真っ黒になった。選んだのは19歳での自己破産だった 成人年齢引き下げから2年、児童福祉関係者が「債務トラブルはますます増える」と断言する理由とは
▽過去10年で最多に 若者から全国の消費者生活センターに寄せられる多重債務の相談は増えている。国民生活センターによると、2023年度の相談件数は20代が3844件。10代からも175件あった。いずれも過去10年で最多だ。特に10代の増加傾向は顕著で、2013年度は65件、成人年齢引き下げ前の2021年度は90件だった。 相談内容はこんな調子だ。「インターネットで購入したクレジットカードで限度額まで買い物をし、払えなくなった」「娘が複数枚のクレジットカードを契約した。返済に困っている」。ケンの事例と大差はない。 ▽本人の特性も影響 自立援助ホームで自己破産の事例が増えると加藤さんらが断言するのには理由がある。これまでの家庭環境や本人の発達特性が要因で、お金を正しく使う経験や計画的に考える習慣がついていなかったり、苦手だったりする入居者が多くいるからだ。 ケンは幼少期、注意欠陥多動性障害(ADHD)の診断を受けている。さらに、母親からは日常的に暴力を受けており、食事を食べさせてもらえないことが頻繁にあった。空腹をしのぐため、盗みに手を出してもいた。
松岡さんは自立援助ホームで働く前、少年院で勤務する法務教官だった。その時からケンのような複雑な家庭環境にあった多くの非行少年と接してきた。経験を踏まえてこんな見方を示す。「発達障害があったり、貧困家庭で育ったりしている場合、お金はある時に使い切ってしまわないと駄目だと考えてしまいがちです。小遣いのように、限られた範囲でやりくりした経験がない子どももいます」 松岡さんは続ける。「虐待を受けていると、今が楽しければ良いと考え、先を見通すことが難しい。『最悪、死ねばいいや。それで終わり』だと思っている人も少なくないんです」。加藤さんも同じ考えだ。「まずは本人が虐待といった過酷な経験から回復しないと。自身が抱える問題に向き合うのはそれからです」 取材の途中、別の入居者のユウ(22)が帰宅して、加藤さんと松岡さんに尋ねた。「なー、俺、自己破産終わったん?」。ユウもまた、消費者金融からの借金が膨らみ、自己破産手続きを進めていた一人だった。7月末、私(記者)がホームを再び訪れたときには既に手続きが完了していた。 ▽「最悪の結末」を防ぐために