〈目撃〉棚氷の崖から次々に飛び降りるコウテイペンギンのひなたち、初の映像
「映像に収めたなんて信じられません」と研究者、100年後には絶滅のおそれも
まるで最初に湖に飛び込む勇気のある人を待ちながら、崖の上に群がる10代の若者のように、生後数カ月のコウテイペンギン数百羽が、高さ約15メートルの南極の棚氷の上に集まっている。 【動画】崖から飛び降りるコウテイペンギンのひなたち、初の映像 空腹に駆られたひなたちは、崖の縁をのぞき込み、まるでこの高さから南極の海に飛び込んでも大丈夫かどうかを考えているかのようだ。 そして、1羽のひなが飛び込んだ。 傍観していたひなの中には、首を伸ばしてそのひなが真下の氷の海に落下し、水しぶきを上げる様子を見つめる者もいる。数秒後、ひなは水面に浮上し、新鮮な魚やオキアミ、イカを求めて泳ぎ出した。他のひなたちも徐々に後を追いはじめ、空中ではなく水中を移動するための翼をはためかせながら、次々と飛び込んでいく。 ナショナル ジオグラフィックとディズニープラスが2025年4月の「アースデイ」に放送予定のドキュメンタリーシリーズ『ペンギンの秘密(Secrets of the Penguins)』の制作スタッフたちは、2024年1月に西南極のウェッデル海の端にあるアトカ湾で、ドローンを使ってこの非常に珍しい光景をとらえた。科学者によると、コウテイペンギンのひながこのような高い崖から飛び降りる様子を映像でとらえたのは初めてだという。 「映像に収めたなんて信じられません」と、ニュージーランド、カンタベリー大学の保全生物学者であるミシェル・ラルー氏は言う。ラルー氏はひなの飛び込みを見ていないが、産卵からひなの巣立ちまでのコウテイペンギンの行動を3年間にわたって記録した撮影隊の相談役として、アトカ湾を訪れていた。 通常、コウテイペンギン(Aptenodytes forsteri)は陸にしっかりと張り付いた棚氷の上ではなく、解け出してバラバラに浮かぶ海氷の上で繁殖する。しかし最近、棚氷の上で繁殖する集団が出てきた。科学者たちは、この変化は気候変動によって海氷が解ける時期がますます早まっていることと関連しているのではないかと考えている。 国際自然保護連合(IUCN)は、地球上に生息するコウテイペンギンの全個体数を約50万羽と推定している。気候変動の影響を主な理由として、IUCNはコウテイペンギンを「近危急種(near threatened)」に指定している。 2024年1月上旬、南半球の夏が終わる最後の数週間に、ラルー氏が棚氷の上で育てられたと考えているひなの一群が、崖に向かって北上しながらよたよたと歩いているところを撮影隊は発見した。撮影隊は、ひなたちがどこに向かっているのか気になり、俯瞰的に見るためにドローンを飛ばした。次第に、多くのひながこの群れに加わり、最終的に崖の上には200~300羽が立っていた。