〈目撃〉棚氷の崖から次々に飛び降りるコウテイペンギンのひなたち、初の映像
飛び降りなければならない
ジェラルド・クーイマン氏は、南極でコウテイペンギンを50年以上研究してきた海洋生理学者だが、このようなできごとを目撃したのは1回だけ、それも30年以上前だと言う。 「海氷から氷山に向かって地吹雪がなだらかに雪を積もらせ、巣立ちをむかえたひなの群れがその斜面を登って氷山の上に登っていった」と、クーイマン氏は2023年11月に出版された著書『Journeys with Emperors(コウテイペンギンとの旅)』にそのときの様子を書いている。 「ひなたちは、海氷が寄せては返す高さ約20メートルの崖で立ち止まった」。2日ほどの間に、2000羽近くのひながその崖に集まった。 「ついに、ひなたちは崖から飛び降り始めた」と、米カリフォルニア州スクリップス海洋学研究所の海洋生命工学・生物医学センターの名誉教授であるクーイマン氏は著書の中で述べている。 「ジャンプしたり跳んだりするのではなく、ただ一歩踏み出して真っ逆さまに落ちていく。時には大きな音を立てて水面にぶつかる前に、2回宙返りすることもあった」 これは珍しい現象だと、人工衛星からペンギンを監視している科学者たちは言う。アトカ湾のコウテイペンギンのコロニー(集団繁殖地)を数年間、衛星画像で調査してきた英国南極観測局(BAS)の科学者ピーター・フレットウェル氏は、その崖に向かって北上するコウテイペンギンの足跡を時々見かけている。フレットウェル氏は、1月のひなたちは「根本的に間違った方向に行った」1、2羽の気まぐれなおとなの後を追ったのではないかと推測している。 コウテイペンギンの幼鳥は通常、海氷から海に飛び込んで巣立つ。高さは1メートル未満だ。 一方、映像に収められたひなたちは、海に入るには厄介な場所にいると気づきながらも、おそらく非常に空腹だったのだろうと、科学者たちは言う。親鳥はすでに海に出ており、自分たちで魚を捕る時期だというメッセージをひなに送っていた。そして、ひなたちは、産毛に代わって、滑らかで防水性のある成鳥の羽が生えそろうのを待ちながら、じっと座っていたのだ。 「この崖っぷちに来ると、『よし、海が見える。あそこに入らなきゃ』となるのでしょう」とラルー氏は言う。「楽しそうなジャンプには見えないけれど、飛び込むしかないだろうと」